『永遠のブレイク寸前』というキャッチフレーズは日本のロックバンドthe pillowsがその名を欲しいままにしている。


しかしなんだかんだでキャッチーだし数年前には少年ジャンプの人気漫画「スケットダンス」のアニメで劇中歌に使用されるなどして若年層にも支持を受けることとなった。



それ以上に売れているのか売れていないのかわからないのがGrapevineである。



1993年に大阪で結成。


2014年までにシングル26枚、フルアルバム12枚、ミニアルバム3枚をリリース。


結成からポニーキャニオン所属だったが2014年にSPEEDSTARに移籍した。



経歴だけ見ると活動歴20年の大ベテランという感じだが、2ndアルバムの『Lifetime』がオリコンで3位を獲得したのをピークにそれ以降は二桁台には入るものの大きなヒットを飛ばしているというわけではない。



彼らが何故売れていないのかを考察してみよう。 


①自由過ぎる





あれは2012年のClub Circuitツアーを観に行ったときのことだ。



ゲストにアナログフィッシュを迎えて行われたツアーなのだが、まずアナログフィッシュの演奏のあとに出てきたGrapevineがもはや心配なくらい酔っぱらっている。


ライブ自体は素晴らしい演奏を見せてくれるのだが、最後の最後にめちゃくちゃ暗いというかカオスな曲を演奏してしれっと出ていく。当然ながらアンコールが起こるのだが、アンコールで再登場したボーカル田中が最初に発した言葉は「まさかあんな曲で終わると思わんかったやろ!」


そしてアンコールにはアナログフィッシュも登場して、合同で何をやるのかと思えば突然BEACH BOYSのカヴァー!


それでライブは終了した。



いや、ライブ自体はとても楽しかったのだが、これほどまでに自由な立ち振る舞いができるGrapevineを心底かっこいいと思った反面、Club Circuitという元々チケットの倍率も高い公演なので初見の人は少ないかもしれないが「これ初見の人かわいそうやな…」と思ったのであった。 


②縁の下の力持ちがハイスペック過ぎる





Grapevineの魅力はやはりボーカル田中の何とも言えないセクシーさと独特の言葉遊びが光る歌詞と癖のある歌声など色々語られるのだが、実はGrapevineのほとんどの作曲はドラムの亀井が担当していたりする。


高校時代からラグビー部だったということもあり体育会系アニキという風貌の亀井だが、Grapevineきってのメロディメーカーなのである。



そしてギターの西川こそGrapevineの最大の武器である。


日本にも様々なギタリストがいるが、有名なギタリストというとやはりほとんどがハードロックやフュージョンを思わせる演奏をするのだが、西川のギターはブルースが根底にある。


派手なフレーズを弾くわけではないしGrapevineの楽曲の性質上、押せ押せなリフもないのだが西川のギターは何故だか耳に残るものがある。


結成当時、ボーカルの田中は色んなメンバー募集の貼り紙にボーカリストとして応募しながらもギターが上手いということをひけらかして遊んでいたそうなのだが、Grapevineのメンバー募集に応募してしまったが最後西川のギターを目の当たりにして勝てないと思い大人しくボーカリストに就任したという逸話もある。



しかし問題なのはハイスペックなメンバーに恵まれているにも関わらずなんとも地味なのである。


年齢的にも田中が若いという部分もあるが、そこまで田中だけに花を持たせなくてもいいんじゃないかというくらい残りのメンバーは引いているように見える。 


③田中の歌詞が高度過ぎる






「不安な朝 歩く人の列 浮かれた独裁者の狂える瞼」(『豚の皿』)


「脂肪の塊取るカラクリだ ピエールとジャンはいかれたアフロだ だからこうやってファンキーな短編を残すのだ」(『マダカレークッテナイデショー』)


「バカな娘だった なかなかだった 朝方だった I'm funky モーパッサン It's funky モーパッサン 能書きはもうたくさん」(『マダカレークッテナイデショー』)


「愛の力借りない レノンがパーで僕はグー アイノウ なるようになれだ いつものこと」(『ふれていたい』)


「アダバナヲサカセマショウ マタハナデワライマショウ アダバナヲサカセマショウ カタカナデウタイマショウ ケッテイ」(『アダバナ』)



読むだけでもなんだかテンポのいい語感と韻、そして狂気を感じる。


田中のキャラ的にちょっとおふざけめの歌詞ばかり選んでしまったが、真面目な歌詞にこそ田中の本領が発揮される。



「もう一度君に会えても本当は もう二度と届かないような気がしてた」(『光について』)


「それが魔法というものなら どれだけ信じれるだろう それで時間が止まるんなら それだけが人を動かすのなら それでもまだそう言うのなら」(『それを魔法と呼ぶのなら』)


「坂道で仲直りしたのは夏だったっけ? ひとつだけ教えて いつか言いかけた言葉は夢?」(『ナツノヒカリ』)


「照らして欲しいのはそんな遠くの方じゃなくて 目の前の本当の世界だけ」(『少年』)


「みんな知らぬ間に時を過ごしたのかなぁ 思い描いたとおり?ちょっと違う 今夏の香りがしました 涙が出なかったのはそれのせいかなぁ」(『風待ち』)


「いつか叶うようにと どのツラ下げて言うんだろう その大事なイメージも やがて忘れてしまうんだそうだ」(『Everyman, everywhere』)



好きな歌詞を抜粋してみた。


ちゃんと語感や韻を考えながら書かれていながらにしてメッセージも込められている。


恐らく田中が洋楽好きで歌詞の書き方にも大きな影響を受けているのだろう。


しかし「愛してる」や「好きだよ」をとりあえず連呼しておけば「直球の素直な歌詞」としてもてはやされる邦楽ヒットチャートでは到底受け入れられないというのが悲しいところだ。 


④渋過ぎる






やはりバンドがブレイクする要素として、フォロワーが現れるということも大切である。


一番身近で最小規模のフォロワーというのはまさに今から楽器を始めてみようと思うキッズである。


そんなキッズも最初に何を練習するかと言えば自分の好きなバンドのスコアを買い、友達を誘ってバンドを結成、そして文化祭で披露しようとするだろう。


そんなときにいきなりGrapevineのバンドスコアを手に取るキッズが存在するだろうか。いや、しない。


今のキッズたちにGrapevineは少し年齢的にタイミングではないかもしれないが、少なくとも私の時代は175R、ガガガSP、GOING STEADYなどのいわゆる「青春パンク」が全盛期だったこともありGrapevineの名前も売れ始めていた頃にも関わらず「Grapevineが好き」など渋過ぎると思われるのでとても言えなかったものだ。



しかしどんな渋いバンド、例えばTRICERATOPSやくるりにも中高生受けしそうなキャッチーな曲が一曲はあるもので、このあたりは文化祭でコピーバンドで披露した覚えがある。


逆にBob DylanやTHE BEATLESなどは渋いなりにもある種のオールディ-ズ的なお洒落さがあるのでそれはそれで受けたものだ。


しかしキッズであった私にとってもGrapevineの渋さは中高生のそれを超越していた。



そして今なおキッズの心を掴まない、その硬派なバンドこそがGrapevineである。


ちなみにバンド名の「Grapevine」はMarvin Gayeの『I Heard It Thruough The Grapevine』という曲名に由来するという点においてもシブいねぇ、おたくまったくシブいぜ。



レーベルを長年連れ添ったポニーキャニオンからSPEEDSTARに移籍したGrapevineだが、これからも自由でニュートラルな存在でありながら硬派を貫くGrapevineでいてくれるだろう。



記事:ftmftm