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あいくれ――揺さぶりをかける音像

あいくれ――揺さぶりをかける音像

muevo編集部にリクエストが寄せられた「気になるアーティスト」を紹介するmuevo pick up。今回は「あいくれ」のサウンドの魅力を現役音楽エンジニアのまたらんが分析します。


写真左から、小唄(Gt)、ホンジャマカ・斎藤・TAKAYUKI(Ba)、ゆきみ(Vo)、こめたに(Dr)



現役音楽エンジニアであり、ギタリストのための音作りbot(@gt_sound_making)管理人である、またらんが話題のアーティストのサウンドやアレンジの効果等を解説させていただきます。


今回は東京都立川市を拠点に活動し、着実に支持を集めつつある注目若手バンド「あいくれ」を取り上げさせていただきます。


紐解く楽曲は2曲です。 1曲目はあいくれを紹介するならこれという曲「リビルド」。 






ギターはテレキャスターらしい乾いた歪みサウンドがメインとなっていて、弾いている音域や音作りを左右のチャンネルで上と下に分けて、混ざって聴こえた時にひとつのコードとしてまとまるように作られています。 ギターがシンプルなプレイが多いため、ベースは細かなプレイで曲にうねりを付けています。しかしそれがバンドに馴染むようにハイミッドを抑えて目立ちすぎないように処理されています。Aメロではハイを強調してスラップベースを前に押し出して細かいリズムを立てています。この楽器隊の細かい拍の取り方に反してヴォーカルラインは長めの音符でメロディを歌っているので、その差が曲を立体的に聴かせてくれます。 


また、この曲は途中で3拍子のワルツのリズムに切り替わるセクションがあります。そこではヴォーカルにリバーブを深くかけて音を重ねて幻想的な雰囲気を作り出しています。こういった今までとは違った雰囲気のセクションを入れることで楽曲に新たな表情が加えられます。また、元のリズムに戻るところで急激な変化を意図的につけ、疾走感や聴き手の感情への揺さぶりを付加することができます。この曲では唐突にギターがコードを掻き鳴らしていますが、これはライブでも映えるようなアレンジだと思います。


またラスサビでのキメの間でギターにフランジャーをかけている点も面白いです。この曲では少し難しいタイミングで使っていますが、サビ前などで変化を付ける方法としての使い方を応用したものといえるでしょう。例えばオクターブ奏法で上昇フレーズにしたりして高揚感を煽るサビ前でのアレンジをフランジャーで処理することで、ひとつのコードを弾いているだけで低音感を削らずにサビ前の盛り上げを演出できます。この応用系としてこの楽曲ではフランジャーが使われています。


またこのラスサビ周辺でキメや拍子を変えたりしてリズムをタイトに絞り緊迫感を出していたところからアウトロに入ってリズムを大きくして抒情感が出すことでより楽曲をドラマティックにしています。あいくれはリズムの変化でその空気感を作っていくことが非常にうまいですね。

続いての楽曲は「なんとなくの日常」というロックバラードです。






この楽曲もギターは歪みのサウンドがメインで「リビルド」よりも少しマイルドな印象の音になっています。ベースは歪ませているのでギターがコードを弾くとギターと混ざってバンド全体でコードを鳴らしているような感触になるようにされています。


曲の前半では淡々と刻まれるリズムで進行していき、その無機的な演奏の中にメロディ感のあるベースのフレーズや力強く叩き付けられるフロアタムの音など徐々に有機的なフレーズが入ってきて感情の揺らぎを表現していきます。歌詞が客観的描写を主体としていたところから徐々に主観的な言葉が増えていくためにそれと呼応しているといえるでしょう。


サビのコード進行にもこだわりが感じられます。FからCなどのポップな進行とA#MからA#mやディミニッシュコードの半音移動で切なく響くコード進行を交互に使い複雑な表情を持たせています。


またこの曲にもあいくれらしいアレンジが挟み込まれます。「1、2、3」とヴォーカル主体になってバンド全体でリズムを弱くすることで一気に音像を引かせてからバンドインする展開には鳥肌が立ちます。最初はヴォーカルにリバーブを深くかけて非現実的な雰囲気を演出しているのですが、切り替わる直前のヴォーカルだけリバーブを切ることで急に現実に引き戻すような効果を発揮しています。そしてバンドインしてバンド全体で8分音符を主体に刻むビートと空間系エフェクターで音像をぼかしつつも、素の音では出せない高音域のキラキラした音で奏でるリードギターのフレーズが合わさることで圧倒的世界観を作り上げています。


そしてサビに入るのですが、ここではクレッシェンドするドラムでサビをよりドラマティックにしていき、ドラム以外の音を切ってバスドラムを3発打ち鳴らしています。この効果はボーカルのリバーブを切るアレンジと似たような効果をもたらしているといえるでしょう。その後すぐに元のサビと同じビートに戻るのかと思ったらまた違ったリズムでのサビとなります。元のビートよりも大きいリズムの取り方と「1、2、3」というコーラスを合わせてより雄大なイメージを組み上げます。そしてビートが戻ってくるとそこにはより壮大なイメージを付加されているという寸法なわけです。


曲の最後の締めのアレンジも面白いですね。終わったかと見せかけて、無音の瞬間を作り出すことでより気持ちに揺さぶりをかけることができます。ライブでもこういったアレンジは活きてきそうだと思います。


文・またらん



あいくれ

東京都立川市を拠点に活動中。2015年夏、RO69jackにて入賞バンドに選出され、同時期にMASH A&Rのマンスリーアーティストにも選ばれる。2016年1月には1st EP『アポトーシスの愛し方』レコ発企画を地元”立川BABEL”で行い、総動員200人以上の大盛況に収めた。同年6月、名古屋にてSAKAE SP-RING2016出演。11月21日のライブをもってベースのホンジャマカ・斎藤・TAKAYUKIが脱退。それ以降はサポートベースを迎え活動を続ける。


あいくれ オフィシャルホームページ

http://aikure.com/



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