今年6月に2ndミニアルバム『Mine.』したばかりのシンガーソングライター・井上苑子が、7月22日(日)東京・新木場STUDIO COASTにて自主企画イベント『いのうえ夏祭り2018』を開催した。『いのうえ夏祭り』の開催は去年に続き2度目。今年はライブゲストとして大阪出身の4ピースピアノロックバンドSHE'Sが招かれた。


屋外エリアを昼の12時から開放し、井上苑子本人も頭から出演。サブステージでのアコースティックライブやトークイベント、本人プロデュースの飲食ブースや縁日ブース、休憩スペースなどで開演前からSTUDIO COASTは大賑わい。催しの内容や装飾などすみずみまで工夫が凝らされており、本編開演前から華やかなお祭りムードで彩られていた。 

17時からメインステージでSHE'Sのライブがスタート。フロアの中央には櫓が設置され、ステージには「いのうえ夏祭り」ロゴのネオン管と、それを取り囲むようにアジアンテイストの吹き流しのついた提灯(※井上苑子いわく「ランタン」)が多数飾られている。SHE'Sはライブ中盤に、「1曲コラボしたいと思います」と言い、井上苑子をステージに呼び込む。



井上苑子とSHE'Sの両名でSHE'Sのメジャー2ndシングルの表題曲「Tonight」を披露した。「Tonight」は井上苑子が初パーソナリティを務めたニッポン放送の『オールナイトニッポン0』で2年前にオンエアした楽曲でもあり、井上苑子はその際初めて「SHE'Sさんの曲をよく聴いていて、なかでもこの曲が大好きです」と公言したそうだ。井上苑子と井上竜馬(SHE'S Vo/Gt)による美しいハーモニーに会場中が酔いしれる。歌い終えた井上苑子は「緊張した!」と笑いながらステージを後にした。 


SHE'Sのライブ終了後に、下手に設置された巨大プロジェクターからVTRが流れる。SHE'Sにドッキリを仕掛けようとする井上苑子が逆ドッキリを仕掛けられるというバラエティ的な内容で、モニターを見つめる観客たちもまたドッキリに引っ掛かってしまった井上苑子をあたたかい目で見守っていた。 


そしてこの夏祭りの締めくくりとして主役の井上苑子がステージに登場。SHE'Sのステージに出てきたときはキャメル色のワンピースで登場した彼女だったが、カジュアルのなかに女性らしさをミックスさせた衣装に身を包んでいた。「リメンバー」「グッデイ」などエレキギターを奏でながら少女感のあるキュートで力強い歌声を響かせる。本当に朝から準備をして、正午からあの炎天下でライブをしていたのだろうか?と不思議に思うくらいのステージングだ。ステージ上の提灯に明かりが灯ると、和風メルヘンとも言うべきカラフルな世界が広がった。「TODAY」ではハンドマイクで櫓に乗り込み、フロアを覗き込みながら笑顔で歌唱し、「ねぼう」はピアノと井上苑子の2人編成でパフォーマンス。彼女が声を震わせて歌う場面に、観客もじっと聴き入った。 




「せかいでいちばん」を穏やかに歌い上げると、「わたしは夏の歌をたくさん歌ってきましたが……。この曲でみなさんのお耳に届いたかもしれません」と言い「大切な君へ」へ。櫓の上でエレアコを構えて彼女が歌うとフロアにはクラップが沸き、STUDIO COAST名物のひとつ巨大ミラーボールも櫓の上まで降りて、フロア中を煌びやかな空間に染めた。


井上苑子のファルセットを巧みに使った歌声にうっとりしていると、続いての「Stay With Me」で空気は一転。井上苑子はハンドマイクでステージ中を走り回ったりジャンプしたり櫓から乗り出したり拳を振り上げたりとスカ・ナンバーをエネルギッシュに全身で届けた。


SHE'Sをゲストに招いた話題に触れた井上苑子は「ぜひわたしのステージでも一緒にコラボさせていただきたいと思います!」と言い、ステージに井上竜馬を招き入れる。井上竜馬はコラボにあたって井上苑子の楽曲から3曲ピックアップしたそうだ。そのなかから選ばれた「ワンシーン」をコラボレーション。井上竜馬はエモーショナルかつ鮮やかにピアノを弾き、W井上で聴かせた男女オクターブユニゾンも非常にドラマチックだった。 


ハンドマイクになった井上コンビは祭囃子アレンジの「SHAKE」を景気よく歌い、井上竜馬がステージ袖に捌ける。そして井上苑子が「夢」を歌い出した……と思いきや彼女が急に「夏祭りですから! 祭りがまだ終われない!」と切り返し、再び祭囃子アレンジ「SHAKE」へ。するとSHE'Sメンバーが歌詞に合わせてパリパリ海苔のしゃけのおにぎりを食べながら登場。井上苑子もそれを頬張り、SHE'Sとともに「SHAKE」をサビを1回し歌った。そのあと再びSHE'Sはステージを去り井上苑子も「夢」を披露したのだが、彼女はどうやら食べたおにぎりが喉に詰まってしまったよう(笑)。お米と戦いながらも、観客の歌声の力を借りながらパワフルに歌い切った。 


この日誕生日を迎えた自身の母親についての想いを語った井上苑子は、二十歳になってやっと母親に誕生日プレゼントを渡せたと話す。「自由に音楽活動をやらせていただいているのも、路上ライブをやらせてもらったのも、高校入学と同時に上京させてくれたのも、明るいお客さんがたくさん集まってくださるのも、この家庭で育ったからかな、と思います。今日はいろんな気持ちをパワーに変換してステージを作っています」と真っ直ぐなまなざしで伝えると、最後にビーチボールや浮き輪がフロアに投げ込まれた「エール」、「線香花火」、「青とオレンジ」と立て続けに歌い上げた。 


アンコールではお団子頭に赤い浴衣姿の井上苑子がステージに現れる。彼女が「来年も『いのうえ夏祭り』を開催できるようにがんばります」と告げると、大きな拍手と歓声が起きた。「最後にめちゃめちゃ盛り上がって終わりましょう!」と呼びかけ「君がいればOK」を披露。SHE'Sのメンバーも再びステージに登場し、タオル回しやシンガロング、コールなどで会場全体が大いに盛り上がった。




最後に井上苑子ひとりがステージに残り再度観客に感謝を告げる。満面のスマイルを浮かべ「ありがとうございます、また会いましょう! バイバーイ!」と名残惜しそうにステージを去った。井上苑子は7月下旬から47都道府県インスタ&路上ライブを行い、11月にシングルをリリース、冬には年またぎ全国ツアーを敢行。今後も彼女は現実世界でもSNS上でも我々を大いに楽しませてくれるだろう。 





 文・沖 さやこ