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アレがあるからイマうたう:連載9日目「ホーリーランド」

アレがあるからイマうたう:連載9日目「ホーリーランド」

『それでも弾こうテレキャスター』『COME TOGETHER』の配信リリースを記念して、QOOLANDの平井拓郎による期間限定の日替わりコラムがスタート。第9回目は「ホーリーランド」です。

森 恒二先生による路上格闘漫画であり、2000年から2008年まで、ヤングアニマル誌上で連載されていた『ホーリーランド』。人気作となり、テレビドラマ化もされた。


森先生の作品は、その人柄が素直に投影されている。ご自身の経験をもとに描かれた圧倒的な心理描写は、絶対無二の読み味を放っている。現在、連載している作品は『自殺島』『デストロイアンドレボリューション』と2作ある。どちらも強い意志があり、生半可な作品では無い。命を削って描いているような熱を帯びている。


森先生の作品に共通するのは主人公がみんな苦悩し、苦しみ、自分を変えようとしていることだ。また「自分がやっていることは全面的に正しいことではない」という自覚の中で生きている。だからか、彼らの使う言葉は薄くない。まるで、絶望をくぐり抜けてきたような深みと誠実さを感じる。それら全作品に、僕は強い影響を受けてきたが、今日は出世作である「ホーリーランド」に光をあてようと思う。




『ホーリーランド 1巻』



『ホーリーランド』に出会ったのは高校に入学した頃だった。変わる環境に対応しきれないで無意味にやさぐれていた。僕の人生でも有数のダサイ時期だった。服装や頭髪を乱し、その年齢ではやってはいけないことやって調子に乗っていた。無意味に反抗することでしか、自分を維持できなかった。すべてを学校や先生、親のせいにしていた。

「大人が悪いから、俺は悪いことをしても仕方ない。俺は悪くない」という思考回路で生きていた。そのせいで、なかなか新しい友人もできなかった。学校にもあまり行かず、ひたすら家で音楽を作ることに逃避していた。何曲も何曲もノートに書き続けた。中学2年生から始めた作曲だったが、高校に入る頃には200曲に届きそうだった。クリエイティブな気持ちなんかじゃなく、ただの逃げだった。作曲数を重ねることで、自分が向き合わなくてはいけないことから目を背けていただけだった。

高校生としてすべきことを放り出し、将来と向き合うプレッシャーに背を向けた。真面目に生きないことの代償や恐怖、痛みを、作曲でひたすら鈍化させようとしていた。困難に向き合って傷ついたり、苦しんだりするのが怖かった。『ホーリーランド』の主人公、神代ユウ(かみしろゆう)も、僕と同じだった。神代は、凄惨なイジメから自殺未遂ののちに、引きこもりとなった。

経緯は違えど、僕と同じように学校というコミュニティに順応できなかった人間だった。そして彼もまた、薄暗い部屋で逃避行動を繰り返していた。神代の逃避は、本屋で立ち読みしたボクシングの本から始まった。決して「強くなろう」といった動機で読んだわけではなかった。殴られる側として、殴り方に興味があっただけで手にとった本だった。

神代が夜中、部屋ですごしていると、両親の争う声が聞こえる。「欠陥品」である自分のせいで、家族の仲も悪くなっていた。その声を振り払うように、神代は本で読んだジャブやストレートを素振りしてみる。腕を振っていくうちに声は遠のいた。そして、あらゆる感覚が鈍化していき、孤独な後ろ暗い、心の平穏が訪れた。そして、生きる目的も無く、現状から目を逸らすためだけに、神代は毎日5000回、腕を振り続けた。

その結果「暴力」を手に入れた。無意識に手に入れた予期せぬ力で、神代は人生を少しずつ変えていく。僕はちょうど、プロでもないのに曲を書きまくる自分が怖くなっていた時期だった。どうして寝ずに曲を書き続けるのか、自分でも分からなかった。それでも書かないと、浮かんでくる不安や恐怖に耐えられなかった。そんな、人と違う生理を持つ自分自身を、気持ち悪いとさえ感じていた。

そんなときに出会った神代は「数を重ねる逃避」「傷から自由になりたい」という同じ生理、同じ願いを持つ同志のようだった。ちなみに著者である森先生も同じ「数を重ねる」症状を抱えていたことがあるそうだ。人生の先輩として、「俺もそうだったから安心しろ」と言ってもらえた気がした。連載は続き、神代は悩みつつも成長していった。人と関わっていくこと、自分を超えることを、神代は少しずつ実現させていった。僕はそんな神代に自分を投影させて、感情移入して読んでいた。神代は僕の同志でもあり、ヒーローでもあった。

一方、僕はなかなか神代のようになれなかった。自分が悪いことをしても素直に認められず、いつも自分の正当性を主張する、被害者意識の強い高校生のままだった。腐った心根を変えるのは難しかった。その僕に「少しずつでも当事者意識、主人公意識で生きよう」と思わせてくれたキッカケになった、神代の言葉がある。仲間が罠にかかりリンチにあい、神代はかけつけ、救いにいく。大勢の敵に全方位から囲まれるも、仲間が傷つけられ、怒りを覚えた神代が、絞りだすように言った言葉だ。

「僕は拳を固めてきた。話をしに来たワケじゃない。無事に済むとは思ってない。怖くないわけではない。それでもボクはこれからも悪意に対して暴力で答える」

このセリフは今でも、僕の心に強く刻まれている。そのときの神代は、理不尽に人を殴りにきたわけではなかったはずだ。仲間を助けに来たのだから、自分の正当性を主張することはできたはずだった。「おまえらが悪いんだから覚悟しろ」と言ってもよかった。だが、神代は自分の正当性を主張しなかった。

自分が宿した「暴力」という力が非合法であること、人を壊すものであることを、神代は認めていた。しかし「暴力」が自分を変えた神でもあり、信仰でもあることはまぎれもない事実だ。それを踏まえて、加害する当事者としての自覚と誠実さが込められたセリフだった。落雷に打たれたような衝撃だった。

僕のように自分の正当性を主張するズルさは無く、神代は誠実に自分がしていることに向き合っていた。神代は「拳に力を宿す」ことを神とし、人生を変えた。僕は「歌を作る」ことを神とし、人生を変えた。だが、僕たちのあいだには決定的な差があった。神代は当事者意識で行動し、僕は被害者意識で行動していた。神代に負けたくないと思った。同じように、自分をもっと自覚して生きたくなった。

今思えば、神代が絞りだしたこの言葉自体が、僕のバックボーンにもなっている。心が弱くなったとき、ふと言い訳や被害者意識が顔を出しそうなときに、この言葉をいつも思い出している。悩むことがあっても、正直に、誠実に、神代のように自分の力と向き合っていきたいと感じ、身を引き締めている。

僕も神代も、傷から自由になりたかった。変わりたかった。居場所が欲しかった。森先生は神代の名前、「ユウ」に「それはあなただ」という意味を込めた。


文・平井拓郎(QOOLAND)




QOOLAND
平井 拓郎(Vo, Gt)
川﨑 純(Gt)
菅 ひであき(Ba, Cho, Shout)
タカギ皓平 (Dr)

2011年10月14日結成。無料ダウンロード音源「Download」を配信。2013年5月8日、1stフルアルバム『それでも弾こうテレキャスター』をリリースする。同年夏、ロッキング・オン主催オーディション RO69JACKにてグランプリを獲得。ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013に出演した。その後もROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014、COUNTDOWN JAPAN 14/15等の大型ロックフェスに続けて出演。2015年夏、クラウドファウンディングで「ファン参加型アルバム制作プロジェクト」を決行。200万円を超える支援額を達成し、フルアルバムの制作に取りかかった。2015年12月9日、2ndフルアルバム『COME TOGETHER』発表。2016年8月6日、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016に出演。 HILLSIDE STAGEのトリを務めた。

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