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アレがあるからイマうたう:連載12日目「下北沢」

アレがあるからイマうたう:連載12日目「下北沢」

『それでも弾こうテレキャスター』『COME TOGETHER』の配信リリースを記念して、QOOLANDの平井拓郎による期間限定の日替わりコラムがスタート。第12回目は「下北沢」です。


大阪の歓楽街で暮らしていた。ずっと下北沢に憧れていた。


夢を持つ仲間が集う場所、夢を信じられる場所、新しい何かが生まれる場所。話に聞く下北沢は、夢を目指す結晶のように思えた。僕にとってのまだ見ぬ聖地だった。「いつか上京して下北沢でバンドをやる」そんな情景に胸は膨らんだ。夢を追いかけることを夢見ていた。19歳だった。


「アジカンも出たことがあるらしい」
「ラーメンズもやっていたらしい」
「たまにバンプが来るらしい」

先輩バンドが興奮気味に話す、下北沢の話が大好きだった。「らしい」の領域を絶対超えない話に、僕はいつも驚かされていた。憧れは日に日に強くなった。

僕は2010年、ついに上京した。下北沢のリハーサルスタジオで練習し、下北沢のライブハウスに出演する日々が続いた。しかし、憧れていた日常は甘くなかった。ライブハウスに出続けていても、お客さんはなかなか増えなかった。

音楽の仲間たちとは、あまり話が合わなかった。彼らの輪に、うまく入れなかった。ダラダラと活動を続けているだけだった。つまらなかった。富士山は遠くから見ると美しいが、実際に登ってみるとゴミだらけだ。それと同じように、強すぎた憧れは僕を苦しめた。

僕は下北沢が少しずつ嫌いになっていった。

ひたすら寿命をすり減らしているような毎日が続いた。呼吸はしているけど、生きている気がしなかった。アルバイトばかりしていた。予定調和のライブを繰り返し、やる気の無い練習を繰り返した。

リハーサルスタジオでの練習は当然自腹。お客さんのいないバンドは常に赤字運営だ。アルバイト一時間で稼いだ千円札はドブに捨てられるみたいに、スタジオのレジに吸い込まれた。

上京して一年ほど経ったころだろうか。今はもう無い下北沢の北口の階段で、僕たちのバンドは解散した。

「一緒にやる必要が無い」

階段に座り、結論は吐き出された。憧れていた下北沢で、僕の夢は一度、完ぺきに終わった。僕はその後、QOOLANDというバンドを作ることになった。話が滑り出した場所は下北沢だった。

毎週、下北沢で練習を重ねた。フルアルバムを丸ごと無料配信し、イベントの誘いはほとんどすべて出演した。やれることを全部やろうとした。段ボールのケースでCDを売り、自作でDVDを作った。高速バスでツアーをして、車を人に借りた。最初の1年で100本近くライブをやった。

「何かを残そう」とひたすらあがいていた。何かを残さないと死んでも死にきれなかった。効率も恥も外聞も捨てていた。身体と心が千切れるような活動を通して、僕たちは変わっていった。

するとお客さんが少しずつ増えてきた。2013年の夏、ROCK IN JAPANのコンテストに優勝し、僕たちは日本最大のフェスへの出演を決めた。その知らせを聞いたときも、僕たちは下北沢にいた。

コンビニでビールを買って、道ばたで乾杯した。やってきたことが認められたと思った。この街で苦しんだことも報われた気がした。嬉しかった。ふと空を見上げると、すっかり暗くなっていた。それでも街には人の気配がした。まるで品川や新橋とは時差があるみたいだ。何も始まっていなかった。でも何かが始まりそうな気がした。

ずっと「夢を持つ仲間が集う場所、夢を信じられる場所、新しい何かが生まれる場所」である下北沢に憧れていた。

上京したばかりのときは、現実を知った。その現実は圧倒的に枯れていて、憧れは幻想だと突きつけられた。大阪から僕が夢見ていた下北沢は、存在していなかった。

しかし気付いたら、集った仲間と夢を信じ、新しい何かを生み出そうとしていた。僕はようやく下北沢にたどり着いた気がした。

文・平井拓郎(QOOLAND)




QOOLAND
平井 拓郎(Vo, Gt)
川﨑 純(Gt)
菅 ひであき(Ba, Cho, Shout)
タカギ皓平 (Dr)

2011年10月14日結成。無料ダウンロード音源「Download」を配信。2013年5月8日、1stフルアルバム『それでも弾こうテレキャスター』をリリースする。同年夏、ロッキング・オン主催オーディション RO69JACKにてグランプリを獲得。ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013に出演した。その後もROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014、COUNTDOWN JAPAN 14/15等の大型ロックフェスに続けて出演。2015年夏、クラウドファウンディングで「ファン参加型アルバム制作プロジェクト」を決行。200万円を超える支援額を達成し、フルアルバムの制作に取りかかった。2015年12月9日、2ndフルアルバム『COME TOGETHER』発表。2016年8月6日、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016に出演。 HILLSIDE STAGEのトリを務めた。

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