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アレがあるからイマうたう:連載4日目「自分の小さな『箱』から脱出する方法」

アレがあるからイマうたう:連載4日目「自分の小さな『箱』から脱出する方法」

『それでも弾こうテレキャスター』『COME TOGETHER』の配信リリースを記念して、QOOLANDの平井拓郎による期間限定の日替わりコラムがスタート。第4回目は「自分の小さな『箱』から脱出する方法」です。


まわりと比べると、わりと本を読む方だ。月に15冊ちょっと読むから、年間200冊前後は読む計算になる。知り合いに年間1000冊以上読む速読キングもいるし、ふだん全然本を読まないという人もいる。


先日、ROCK IN JAPAN FESTIVALの楽屋で一人、本を読んでいた。扉で遮断しているはずなのに、五感がひりつくような爆音が聴こえてきた。僕だけの楽屋がビリビリと音を立てて震えた。


こんなことを思った。「読書ってあまり派手なアクションではないなぁ」と。


一人で黙ってページをめくり、知識を吸収し、思いにふける。それを自分の血肉に変えていく。これらを積み重ねると、とんでもなく強い力になる時がある。読書を習慣化しない人は、この破壊力を過小評価していると思う。


僕がその破壊力を実感した一冊がある。「自分の小さな『箱』から脱出する方法」だ。


最初に手にとったのは20歳の時だった。大学の授業だったと思う。正直当時はよくわからなかった。授業の一環なのもつまらなかったのかもしれない。しかし、卒業後も何度も読み返したくなる不思議な本だった。わからないけど、わからないなりに、なんとかわかりたくて定期的に読み返していた。


僕は、本は知識や情報を買っていると思っているので、読み終えたら処分することが多いのだが、この本は何度処分しても僕の手に返ってくる。そして、この本は独特の磁力があるのか、捨てたり売ったりしてもまた買ってしまうのだ(こう書くとちょっと怖い)。僕の本棚に刺さってあるこの本はもう4冊目だ。そして先月読み返して、ようやくしっくり来たというか。「わかった」感覚が得られた。


この本に書かれている内容は「自己欺瞞」について。本を作ったアービンジャー研究所は難しい言葉を使わないように「箱に入る」という表現を使っている。この「箱に入る」ことの恐ろしさと、危険性。逆に箱から出たときの素晴らしさについて、小説仕立てで主人公と勉強していく内容だ。

「一生懸命やっていない人間に対しては怒ってもいい」

「自分は疲れているからこんなにできなくてもしかたない」

「赤ん坊が泣いているけど、俺は明日朝早いから寝かしつけなくていい」


これらの状態をすべて「箱に入っている」状態と呼び、チームや組織(家族関係も含む)はこの箱から脱出する必要がある。そうしないと少なくとも成果に対しては100%のパフォーマンスが発揮できない。そんな話である。


僕たちは箱に入った時、「自分は相手より価値があり、尊重されるべき存在だ」という心理状態になるこの心理状態、つまり「箱に入っている状態」の恐ろしいところは言い返されたり、その状態をとがめられたりすると、より強く深く箱に入ってしまうというところだ。より強く深く箱に入ると「自分は相手より価値があり、相手は自分より劣った人間だ」という意識が働いてしまう。


箱に入ると僕たちは成果を最優先するのではなく、自分の正当性を最優先する思考回路になってしまう。しかし「自分の正当性は成果のためだ」と言わんばかりの指示のため、自分でも箱に入っているかは気づかない。


たとえばある営業会社がある。上司は部下に数字を追わせなくてはいけないが、成績の悪い部下がいたとする。「数字を出さなきゃ、会社に対して給料泥棒だ。じゃあ数字を出していないコイツは悪だ。俺は成果主義だ」。この思考回路は自分が成果に対して、真摯に向かっている人間だと、本人は感じている。では実際はどうだろうか。


強く叱責された部下は「会社のためにがんばろう」という気持ちが生まれるだろうか。数字を優先して、コンプライアンスに違反した営業をしないだろうか。トラブルが起きたとき、上司に黙っている確率は上がらないだろうか。離職率は上がらないだろうか。


少し引いて見ると、成果に対して歪んだものがいくつか発生していることがわかる。それでも上司の攻撃はとまらない。さらに強く叱責を続ける。「成果に対して、俺は真摯だ。ちゃんとやらないやつが悪い。数字が出ていないやつは怒る。俺は正しい」という気持ちがあるからだ。


そして数字が上がらなければ部下は辞めるだろう。少なくとも辞めた分の数字は落ち、また新しく部下を雇わなくてはいけない。研修費用をかけて育てる時間もかかる。自分の正当性を最優先した思考が導く先に、成果は存在しない。これら無意識レベルで自分の正当性のメカニズムを図解したものは本書に掲載されている。


難しいのは、短絡的に行動を変えても、僕たちは箱から脱出できないということだ。何故なら人間は相手が自分のことをどう思っているかを、感じるとることができてしまう。


前述の上司を例に挙げてみる。上司は腹を立てながらも、このままではいけないと、部下とコミュニケーションをとることにした。家族の近況を尋ねたり、ランチに誘ったりあらゆる手を尽くした。だが、成果は出ない。そして「俺はやるだけやった。歩み寄った。だから正しい。でも駄目だった」という言い分が残った。


「部下そのものに関心が無く、部下にどう見られているかに関心がある状態」や「部下自体がなんとかしなくてはいけない問題」だと感じていても前進はできない。


人間は愛情のないコミュニケーションをしっかりと感知するアンテナを持っている。見せかけの親切心の裏に隠れている非難や、張り巡らされた策略の気持ち悪さに反応してしまう。あなたもなんとなく、「今この人は私のために喋ってくれてないな」ってわかると思う。


この「箱」についてなんと268ページも書かれている。脱出方法含め、僕が書ききることはできない。もはや「人に優しくしようね!」とか「おもいやりを持とうね!」とかいう次元では収まりきらない生物学だと言ってもいい。国内では富士通やマルハン、ナイキ、三井住友、MicrosoftやGoogle、ゴールドマンサックスなどの企業はこの「箱」の理論をチーム単位で導入し、高い成果を出している。


僕のやっている音楽活動も何人もの人が関わっている。僕は、全員が優秀な人材かどうかということよりも、全員が100%のパフォーマンスを出せるかどうかということの方が圧倒的に大切だと感じている。全員が100%のパフォーマンスを出せているチームが音楽業界にはほとんど存在しない。だからこそ、そこに価値があると思っている。


この本と出会ったことで「成果に対して100%向かっている状態」と「成果に対して100%向かっていると自分を偽っている状態」の判別をつけられるようになった。


今でもたまに「箱」に入ることがある。だが、「箱」の存在と脅威をしり、そこから出たいと思うことで脱出が可能になった。


「自分の小さな『箱』から脱出する方法」がなければ、僕はイマ歌えていない。



自分の小さな「箱」から脱出する方法


文・平井拓郎(QOOLAND)




QOOLAND

平井 拓郎(Vo, Gt)

川﨑 純(Gt)

菅 ひであき(Ba, Cho, Shout)

タカギ皓平 (Dr)


2011年10月14日結成。無料ダウンロード音源「Download」を配信。2013年5月8日、1stフルアルバム『それでも弾こうテレキャスター』をリリースする。同年夏、ロッキング・オン主催オーディション RO69JACKにてグランプリを獲得。ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013に出演した。その後もROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014、COUNTDOWN JAPAN 14/15等の大型ロックフェスに続けて出演。2015年夏、クラウドファウンディングで「ファン参加型アルバム制作プロジェクト」を決行。200万円を超える支援額を達成し、フルアルバムの制作に取りかかった。2015年12月9日、2ndフルアルバム『COME TOGETHER』発表。2016年8月6日、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016に出演。 HILLSIDE STAGEのトリを務めた。


QOOLAND オフィシャルホームページ

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公式ブログ

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平井拓郎 公式ツイッター

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