レコーディング。ロックバンドをやっていくうえで「ライブ」と双璧をなす、避けては通れない活動だ。しかしライブと違い、その全貌はイマイチ知られていない。


ライブに触れた経験のある人は多いが、レコーディングに触れた経験のある人は、圧倒的に少ない。この音楽活動の暗部ともいえる「レコーディング」を通して、僕は僕の音楽を磨いてきた。

今日は自宅での録音、「宅録」について光をあてたお話。

人生初のレコーディングは自宅だった。14歳のときに、カセットテープの4トラックマルチトラックレコーダーを手に入れた。マルチトラック。つまり、音を4つまで重ねて録ることができる機械だ。

僕は安物のアコースティック・ギターしか持っていなかった。ギターを2本分録って、歌を録る。余ったもう1トラックには、ギターの低い音だけを弾く。楽器はギターだが、まがりなりにもベースの役割を果たすパートになる。

カセットテープの性質上、録音ボタンと再生ボタンを同時に押さなくてはいけなかった。
足の指で押して、すぐさまギターを弾いた。そんな不格好で、不便なレコーディングを繰り返した中学時代だった。

最大の問題は、演奏がヘタクソで何度も録り直すことだった。今はデジタルなので、何度録りなおしても音の劣化は無いのだが、カセットテープはそうはいかない。カセットの上書きには限度があり、録りなおすたびに音飛びやノイズが混じるのだ。

4、5回録り直したら、その部分のテープは使えなくなった。ヘタクソな自分のせいで、MD全盛時代なのに、僕の家には大量のカセットテープがあった。それでも小遣いは、ほとんどカセットテープに消えた。切迫する予算のために、必死で練習した。

このエピソードからも分かるが、レコーディングとライブの最大の違いは「やりなおし」ができるところだ。一発勝負ではないため、どうしても気が緩みがちになる。そのせいか、ライブ特有の「緊張感」を録りきるのは、とても難しい。

余談だが、僕のバンドもお客さんから「CDよりライブの方がいい」というお言葉を頂くときがある。これは嬉しくもあるのだが反面、レコーディングにネガティブな要因があるとも言える。成長していきたいポイントのひとつだ。

14歳の僕は録った曲をMDコンポにつなぎ、MDに録音して、聴いていた。僕が書いた曲が大量に収録された、僕だけのアルバムだった。リリースもされていない、世界で自分一人だけが楽しむための、最高の自己満足だった。この「録って聴く」という楽しさは、僕が大量に曲を書くモチベーションに繋がっていた。

高校生になり、録音環境はデジタルになった。ZOOM社のMRS-8という機種を買った。このマシンは僕の高校時代の音楽活動を支え続けた。

8トラックの録音が可能であり、ドラム音源も付いていた。「自分の曲にドラムが付けられる」という革命が起きた。オマケにデジタルのため、音の劣化はなく、カセットテープも不要となった。

僕の宅録は飛躍的に向上した。曲を作って、バンドメンバーに聴かせるときも、イメージが食い違うことが無くなった。

そして高校を卒業し、とうとう僕のレコーディングはDTMと呼ばれる環境になる。DTM、デスクトップミュージックの略だ。つまり、コンピュータを使って音楽を録音する。グレードの差はあるが、現在、世界中のレコーディングはほとんど、このDTMで行われている。


19歳の僕は、Pro Toolsというレコーディング・スタジオユースの環境を導入した。Macの大きな画面で操作するレコーディングは、快適そのものだった。スマートフォン程度の小さな画面で、チマチマと操作していたストレスは消滅した。


文章をコピー&ペーストするように、ギターフレーズやドラムフレーズも切り貼りができる。保存も簡単で、自由度も広がり、作曲の切り口も格段に増えた。

最大の切り口は「録りながら作れる」ようになったことだ。今までのマルチトラックレコーダーの宅録は、どうしても「作ったものを録る」でしかなかった。

「全体を聴いてから、Aメロだけを作り直す」
「AメロとBメロを入れ替える」
「コードだけ変えてみる」
「キーやテンポを変えてみる」
「ギターの奏法を変えてみる」
「ベースラインだけ変えてみる」
「ドラムのパターンを変えてみる」
「メロディと歌詞の譜割りを変えてみる」

手法は無限に生まれた。「録りながら、曲を書き進めていく」という技術を手にしたその時期は、僕の作家人生にとって、重要なターニングポイントとなった。

この原稿を書く数時間前も、Pro Toolsを立ち上げていた。あなたの日常にも「食う」「寝る」以外があると思う。「走る」かもしれないし、「話す」かもしれないし、「聴く」かもしれない。

僕の日常には「録る」がある。

「録る」ことはいつしか、「書く」や「作る」ことと混ざり合い、同義になっている。僕にとって、それだけ作詞作曲とレコーディングは、切っても切れない関係にある。

文・平井拓郎(QOOLAND)



QOOLAND
平井 拓郎(Vo, Gt)
川﨑 純(Gt)
菅 ひであき(Ba, Cho, Shout)
タカギ皓平 (Dr)

2011年10月14日結成。無料ダウンロード音源「Download」を配信。2013年5月8日、1stフルアルバム『それでも弾こうテレキャスター』をリリースする。同年夏、ロッキング・オン主催オーディション RO69JACKにてグランプリを獲得。ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013に出演した。その後もROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014、COUNTDOWN JAPAN 14/15等の大型ロックフェスに続けて出演。2015年夏、クラウドファウンディングで「ファン参加型アルバム制作プロジェクト」を決行。200万円を超える支援額を達成し、フルアルバムの制作に取りかかった。2015年12月9日、2ndフルアルバム『COME TOGETHER』発表。2016年8月6日、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016に出演。 HILLSIDE STAGEのトリを務めた。

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