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アレがあるからイマうたう:連載20日目「土方歳三」

アレがあるからイマうたう:連載20日目「土方歳三」

『それでも弾こうテレキャスター』『COME TOGETHER』の配信リリースを記念して、QOOLANDの平井拓郎による期間限定の日替わりコラムを連載中。第20回目は「土方歳三」です。


僕の自宅から、土方歳三の生家までは、さほど遠くない。新選組の副長の生まれた場所が、近くにある。「上京したんだなぁ」と、僕が思うには十分だっ


現代までに様々なメディアで取り上げられ、すっかり人気者になった新撰組。その中でも、土方歳三が大好きだった。彼の持つ、融通のきかない強い意志は、やがて自分自身を締め付けもするのだが、閃光のような美しさがあった。

土方の象徴と言えば「局中法度(きょうくちゅうはっと)」。彼が、新撰組を幕府最強の集団にするために用いた規律だ。定めた決まりを破れば例外なく、切腹。この隊内の粛正により、死亡した隊士は45名にもなり、戦闘で死亡した隊士数を圧倒的に上回る。

付き合いの長い友人が、法度に背いても、切腹。土方は何度、断腸の思いで、同僚が死んでいくのを見届けたのだろうか。「大義のため」という強すぎる意志が、甘えや現状満足を凌駕した人物だ。

この「局中法度」はスティーブ・ジョブズが、アップル社の再建に用いた「割れ窓理論」に近い。建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払わなくなり、やがて他の窓もすべて壊されるという理論だ。

新撰組の例はやりすぎだが、挨拶、時間、期限、小さな嘘などを徹底して取りしまらないと、仕事の完成度には悪影響を及ぼしていく。ニューヨークの地下鉄の落書きをキレイに消したら、犯罪発生率が激減したというデータもある。

僕たちはバンドという、一つの組織をやっている。一般的に、バンドマンなる人種は、決まりやルールに弱いという見られ方もする。実際、朝は起きれず、酒を飲めばコントロールを失うまで飲むという人間も、たくさんいる。目にするたびに「世間から馬鹿呼ばわりされても、しかたないのかもなぁ」と思う。僕も決まりやルールの外にはみ出して、エスケープとして音楽に手を出した人間の一人だ。

だが、枠組みからはみ出した人間でも、人が集まったなら、その枠の中で、けじめはいる。僕も決まりやルールは得意ではないが、もはや得意不得意の話ではない。

たとえば、この『アレがあるからイマうたう』も「日刊で31日連続執筆」という決まりがある。一度も原稿を落とさないのは当然として、全記事、現時点の僕が書ける最高のものを目指して、書いていきたい。ここで「バンドマンだからしかたない」といって、決めたことが守れなくなったり、クオリティのショボいやつにはなりたくない。

新撰組も、バンドマンではないが、浪士や農民の寄せ集めだった。乱暴者、ならず者たちをチームとしてまとめるために、土方は「局中法度」を作った。やり方に賛否はあるが、その結果、新撰組は日本の歴史上、最強の剣客集団組織になった。

「新撰組を大きくしたい、幕府最強の集団にしたい」という、土方の目的は達成された。この勝因は「熱さ」にあった。

そもそも「武士になりたいやつ募集」という幕府サイドの呼びかけに対し、近藤や土方、沖田ら試衛館のメンバーが応えたところから、新撰組は始まった。そこに「楽しそうだからやる」という気持ちはまったく無かった。あったのは「多摩の農民から、武士よりも武士らしくなってやる」という「熱さ」だった。土方は「熱さ」に身を委ねたまま、歴史の渦に飛び込んだ。

僕たちはどうだろうか。その場だけの「楽しい」に身を委ねていないだろうか。そこに「熱さ」は宿っているだろうか。「楽しいけど、熱くはなっていない」。油断すると、僕たちはすぐに、そんな生き方になってしまう。バンドなんてものは、ダラダラ続けていると、すぐにそうなってくる。一歩引いて見ると、「それは本当に楽しいのだろうか」とも思う。


できればそんな生き方はしたくない。


音楽やステージの中に、常在しているものは「熱さ」が先行していけばいい。常に新しいチャレンジを仕掛けて、成長曲線を描いていたい。熱くないと、本気じゃないと、「楽しさ」なんか感じられない。

土方歳三の生き方を「楽しい」と表現するのはあまりに軽薄だが、彼の生き方は、やはり「楽しそう」だ。どこまでもブレず突き進み、喧嘩の勝ち目が無くなっても戦い続けた。そして、ラストサムライとして函館に華々しく散った。多摩の農民の子として、誰よりも武士らしく。

歴史にIfはないが、想像してしまう。彼が戊辰で生き残り、明治政府の中枢に関わっていたら、どんな富国強兵を施したのだろうか。坂本龍馬にも当てはまるが、国のシステムが大きく変わるタイミングで、「あの人が生きていたらどっちに舵をきったのか」。この角度からの思考は、僕の前に問題が立ちはだかったとき、いつもヒントと勇気をくれた。「あのとき、土方ならどっちに行くか」は、「今このとき、土方ならどっちに行くか」に形を変えて、僕の足元の明かりを灯してくれた。

土方が銃弾に倒れた日から、147年の月日が経った。その意志の強さとアイデンティティは、少しも色あせることなく、今日まで僕を鼓舞してくれた。

最初に土方歳三に出会ったのは、天才的な喧嘩師としての手腕を描いた、司馬遼太郎の名作『燃えよ剣』だった。そのタイトルからは土方の持つ「熱さ、峻烈さ、強さ」が分かりやすく発散されていた。活字のなかの土方は、タイトル以上に、鮮烈に、あまりにも美しく燃えていた。




文・平井拓郎(QOOLAND)




QOOLAND
平井 拓郎(Vo, Gt)
川﨑 純(Gt)
菅 ひであき(Ba, Cho, Shout)
タカギ皓平 (Dr)

2011年10月14日結成。無料ダウンロード音源「Download」を配信。2013年5月8日、1stフルアルバム『それでも弾こうテレキャスター』をリリースする。同年夏、ロッキング・オン主催オーディション RO69JACKにてグランプリを獲得。ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013に出演した。その後もROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014、COUNTDOWN JAPAN 14/15等の大型ロックフェスに続けて出演。2015年夏、クラウドファウンディングで「ファン参加型アルバム制作プロジェクト」を決行。200万円を超える支援額を達成し、フルアルバムの制作に取りかかった。2015年12月9日、2ndフルアルバム『COME TOGETHER』発表。2016年8月6日、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016に出演。 HILLSIDE STAGEのトリを務めた。

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