「こち亀」が終わった。


『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が、自分が生きているうちに終わるなんて、思いもしなかった。原作者の秋本治先生の年齢を考えても、そんなはずはないのだけど、未来永劫続くモノだと、「そこにある当たり前」だと、そう思っていた。

「おしまいは必ずやってくる」
「始まりがあれば終わりがある」

今日のジャンプの表紙を見て、どんな言葉よりも、それを実感した。40年の歴史を積み重ねた巻数は、世界最高の200巻に達した。そして週刊連載で、一度も休載をしていない。40年間無欠勤で、週刊少年ジャンプに載り続けた。これはとてつもないことだ。

マンガの週刊連載はあまりにも過酷だ。多くのマンガ家の先生が、体調や諸々の事情で休載してしまう。あの神様、手塚治虫先生ですら、〆切を3連続で落としたことがある。

僕はマンガ家という人たちを、とても尊敬している。新しい面白いことを考えて、それを紙に描いて、仕上げていく。これを毎週続けるのだ。並大抵の気力、能力、根性ではやっていけない。

秋本先生は、これを40年間やってきた。

僕で言うと、1曲書いて、アレンジもして、レコーディングとミックスまでを、一週間で終わらせるということだろうか。これを「40年間やれますか?」と聞かれたら、とても無理だ。

僕は「世の中の新しいモノは、すでにある何かにインスパイアされてできる」と思っている。もう存在しているモノを掛け合わせたり、人が注目していない場所に光をあてたり、その「何か」に触れて、沸き上がった感情を、別のやり方で表現したり。僕が作った「Shining Sherry」は演歌にインスパイアされた。「白夜行」はビートルズの「Black Bird」と、東野圭吾先生の小説にインスパイアされた。

リスナーの皆さんからすると、「全然似ていないし、よく分からん!」という話なのだが、演歌がなければ、「Shining Sherry」は作れなかったし、「Black Bird」と小説が先にこの世になければ、作れなかった。

つまり、何かを創造するには、既存の何かに感動しないといけない。それを、見つけるにも、飲み込むにも、消化するにも、時間はいる。一週間で、インスパイアされて、自分というフィルターを通して書き上げて、レコーディングやミックスまでやる。それを2000回以上連続で。

考えたら、気が遠くなる。改めて、秋本先生の超人っぷりに、度肝を抜かれる。

僕は今日、「こち亀」の200巻を読んだ。思い返すと、初めて読んだのは1995年だった。旅行に行く途中、両親に駅の売店で買ってもらった、94巻だった。

ベーゴマの話があった。とても面白くて、自分でもやりたくなった。すぐにベーゴマを買いに走った。1995年から「こち亀」という「連載作品」を読んできた。今日、21年かけてようやく読了した。ギャグマンガなのに、感慨深くなった。

「こち亀を全巻読んだことある」と言うと、驚かれる。「こち亀」は国民的な知名度のマンガであり、発行部数も1億5千万部を超えている。だが、全巻を読んでいる人は、意外と少ないらしい。

「面白いのは100巻まで」とか「寿司屋が出てきてから面白くなくなった」という意見を聞くが、そんなことはないと思っている。今も面白い。最終巻である200巻も面白かった。


そんな「こち亀」も今日終わった。「始まりがあれば終わりがある」のだけど、終わったからこそ、新しい始まりもある。「こち亀」が終わったけど、秋本先生の新しい仕事は始まる。終わりと始まりは、常に表裏一体だ。


終わったことで、改めて「続けること」の破壊力を教わった。街中で「こち亀」の話をしている人が何人もいた。

もしも全10巻のマンガであったら、この現象は起きていないだろう。圧倒的な「継続」に対して、僕たちはいつも全幅の信頼を置く。そして、強い敬意を払う。その信頼と、リスペクトを勝ち取るには、分母がいる。一度や二度、何かを成しただけでは、たどり着けない境地がある。

「こち亀」は世界一の「継続」により、前人未到の信頼を手にした。

僕も、この連載を31日連続で走っている。比べものにならないけど、秋本先生のように最後まで、全力で書いていきたい。

そして、この連載も、やがて終わる。だけど、その「終わり」は、新しい「始まり」にきっと繋がっている。


 『こちら葛飾区亀有公園前派出所 200巻』



文・平井拓郎(QOOLAND)



QOOLAND
平井 拓郎(Vo, Gt)
川﨑 純(Gt)
菅 ひであき(Ba, Cho, Shout)
タカギ皓平 (Dr)

2011年10月14日結成。無料ダウンロード音源「Download」を配信。2013年5月8日、1stフルアルバム『それでも弾こうテレキャスター』をリリースする。同年夏、ロッキング・オン主催オーディション RO69JACKにてグランプリを獲得。ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013に出演した。その後もROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014、COUNTDOWN JAPAN 14/15等の大型ロックフェスに続けて出演。2015年夏、クラウドファウンディングで「ファン参加型アルバム制作プロジェクト」を決行。200万円を超える支援額を達成し、フルアルバムの制作に取りかかった。2015年12月9日、2ndフルアルバム『COME TOGETHER』発表。2016年8月6日、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016に出演。 HILLSIDE STAGEのトリを務めた。

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