中村仁樹は1983年生まれ、愛媛県出身の尺八演奏家・作曲家だ。17歳の年に尺八に魅了された中村は、東京藝術大学音楽学部邦楽科尺八専攻に進学、卒業後は多方面で精力的な活動を行っている。

「第六回尺八新人王決定戦」(2004年)「第三回東京邦楽コンクール」(2006年)「第二回和洋楽器グループコンテスト」「第二回和洋楽器グループコンテスト」(2007年)など尺八演奏家としての評価は極めて高い。また、その活動に対して「読売新聞社賞」(2007年)「日本民謡協会賞受賞」(同)「宇和島大賞」(同)など栄誉ある賞を授与されるなど、その評価は音楽関係者の内外を問わない。

もちろん、上記以外にも、様々な賞やコンクール受賞を果たしているが、その数があまりにも膨大であるため、ここでは上に挙げたものに留めておく。それだけ、音楽家として突出した才能を有しているのだ。

活動の幅も広く、中村仁樹は5つのユニットに属している(2018年7月現在)。舞台やミュージカルで活躍する崎山つばさとのユニット「崎山つばさ with 桜men」。その他、「蓮-REN-」「HANABI」「斬月-zangetsu-」「Unknown Next Area」の4つの和楽器ユニットに所属している。活動のジャンルも多彩で、日本伝統音楽に始まり、ポップ、ジャズ、クラシックなど多様な音楽性に挑戦している。

また、自身が作曲を手掛けたアルバムを10枚、ユニットを含めて参加したアルバムは30枚を超える。

今回は、その中村仁樹の楽曲、参加しているユニットから3つの曲を紹介していきたい。



●フジヤマ|蓮-REN-(中村仁樹・いぶくろ聖志)


まずは、中村仁樹の参加しているユニット「蓮-REN-」から一曲。2ndアルバム『風にのって』から「フジヤマ」をお届けする。

「蓮-REN-」は中村仁樹(尺八)と、いぶくろ聖志(二十五絃箏)の2人から構成されるユニット。「フジヤマ」の作曲は中村仁樹が手掛けた。

ラテン音楽をも彷彿とさせる和太鼓の力強いドラミングで始まる本曲。そのリズムに乗せて一斉になだれ込むコントラバス、三味線、琴の伴奏が実に痛快だ。ジャムセッションを彷彿とさせる展開になにが始まるのだろうとリスナ―は胸を躍らせる。ジャズやラテン音楽のような展開でありながら、扱う楽器は和楽器がメインであり、その点に不思議な新しさを感じる。そうした4人の呼吸に入り込むのが中村仁樹の尺八から演奏される旋律だ。

主旋律となる中村の奏でる音色に、一瞬耳を疑う。中村の奏でる楽器はなんだったろうか、と。それだけ、世間一般的な尺八の演奏とは異なる。フルートのように軽やかな音色を奏でたと思えば、ジャズのセッションのごとき、自在さはサックスをも彷彿とさせる。曲の合間に演奏される和太鼓と琴のソロパートは、和楽器で構成された曲とは思えない。最早音楽のジャンルを考えるなど馬鹿らしくなるような構成だ。作曲家としての中村の力量の高さが、ここでもうかがえる。



●祈り|中村仁樹



続いて、中村のソロ曲「祈り」を紹介する。「祈り」は中村の1stソロアルバム『祈り』の表題曲となっている。ピアノの伴奏と中村の奏でる尺八の美しい音色がリスナーの叙情を喚起させる感傷的な一曲に仕上がっている。Youtube上に紹介されている本曲には、中村本人から「大切な人々をただ真っ直ぐに温かな気持ちで想う」というコメントが寄せられている。まさにその感情が曲には詰まっている。ピアノと尺八の呼吸とでもいうべきものが、曲からは感じられる。伴奏の盛り上がりに合わせて中村の吹く尺八の音色も一層情熱的なものとなる。奏者の表情を見れば、中村が演奏の際にどのような感情で奏でているのか、一目瞭然ではないだろうか。しっとりと吹くべきパートでは物静かな顔つきとなり、力強い演奏である場合には、表情にも力が入っている様子が見れる。

尺八とは、こうも表情豊かな楽器であったのかと、リスナーは驚くことに違いない。スピーカー越しに表情豊かに演奏する中村の姿が浮かび上がってくるようだ。



●「螺旋」|崎山つばさ with 桜men 



最後に紹介するのは「崎山つばさ with 桜men」の2ndシングル『螺旋』から「螺旋」。本曲もまた、中村仁樹の作曲となっており、作詞も中村が担当している。尺八と琴の演奏から幕開ける本曲は、ジャンル分けするとなれば「ポップス」ということになるのだろう。歌謡曲としてラジオやテレビで流されてもなんら遜色がない。上の2曲が、ジャズやラテン音楽、クラシックを模した音楽であることを考えると、中村の作曲の幅広さ、自在な尺八の演奏に脱帽せずにはいられない。ロック調にエフェクトの効いたエレキギターと尺八が同時に演奏されているが、なんら違和感がない。繰り返し使われる琴と尺八のフレーズはまさにロックで言うところの「リフ」である。間奏においても、エレキギターと尺八の絡み合いを聴くことが出来るが、この流れるような演奏がなんとも美しい。

本作で奏でられる尺八は、ディレイやコーラスなどのエフェクトのかけられたギターのようでもあるというのは言い過ぎだろうか?それだけ自在に尺八の演奏がなされているのだ。


中村仁樹の音楽は、ジャンルを横断する。多様な作曲を行う彼にとって、音楽をジャンル毎にカテゴライズすることは、ナンセンスなことなのかもしれない。

自在に、いくつもの楽器に擬態する彼の尺八の演奏を聴いていると、そのような感想を抱く。今後、中村仁樹がどのような曲を作り演奏していくのか、楽しみである。


【Facebook】https://www.facebook.com/1983masaki

【HP】http://www.masaki-nakamura.com


【CD情報】

中村仁樹『祈り』¥2,400

中村仁樹が満を持してリリースする、ファースト・ソロ・アルバム。

情熱的で繊細な演奏、そしてボーダレスなオリジナル楽曲の世界観は、聴く人の魂を大きく揺さぶる。


1.Lumination -光-

2.風の旅人

3.蒼天

4.祈り

5.花の咲く頃

6.虹のかかる

7.太陽の子

8.400’s~時の螺旋~

9.SORAN

10.故郷の空