『けもの』
響きは剣呑、野性の匂い。視覚からのイメージはやさしさや心地よいけだるさ。
そんな対極にある印象を兼ね備えた、類まれなアーティストが東京を拠点に活動している。
撮影:田里弐裸衣
けもの
シンガーソングライター青羊(あめ)のソロプロジェクトが「けもの」。
2010年EMIレボリューションロックにて3000組の中から最終5組に残る。
2017年に菊地成孔プロデュースでアルバムを発売。
燃え殻作 小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」文庫版のPVに
「リップクリームダブ」が起用され、件のツイートはすでに43万回も再生され、感度の高いリスナーにはすでになじみの存在かもしれない。
彼女の放つ特別な才能はそのサウンドを聴けば確信にかわる。
明瞭にビジュアルな歌詞。しかしそこには、まるで現実と夢の境目が曖昧なままミッドナイトムービーを観ているかのような魔性の中毒性も内包され、ゆらぎつつ確固たる彼女の存在、そのもののようだ。
ボーカライズはどこか危なく禁じられた、触れてはいけない聖域のような魅力を感じながらも生物がもつ有機的なあたたかさがあり、ハピネスやポップネスを多分に含んだサウンドメイクとの絶妙な絡み合いはまさに『けもの』という言葉が端的に表している。
けもの - めたもるセブン / Music Bar Session #12(TOKYO SOUNDS)
このセッションムービーをみればさらに特異な存在であることがわかるだろう。ボーカリストとしての圧倒的魅力、甘さの中にある芯を強く感じさせる強い歌声、そして何より高い音楽的技術が全てを肯定している。生き物のような粗さは極上の心地よさにかわる。
また彼女をとりまくミュージシャンたちも刺激的だ。
Key,Synはアレンジャーでもあるトオイダイスケ、Guitarは中村佳穂BANDやものんくるを支える西田修大 、DrumsはCRCK/LCKSのメンバーで多方面で活躍をみせる石若駿や、スタジオミュージシャンとして名を響かせる伊吹文裕など、所謂”天才”たちが彼女と音をともにしている。
音楽家はおなじシンパシーをもつ音楽家同士で惹かれ合うのだろう、お互いのミュージシャンシップを認めあった彼女たちは、突き詰めた最高の音を奏でる同類として崇高な群れをなす、『けもの』たちなのだ。
けもの『めたもるセブン(Metamor 7)』MV(映画『ナイトクルージング』エンディング・テーマ)
同楽曲、小谷実由主演の変わりゆく東京を写した叙情的なMVも注目だ。
日本で生きる我々に深く入り込みつつも、絶妙な距離で浮遊感を残してくれるキャッチーな歌詞、ミニマルで牧歌的なサウンドはどこか切なく哀しいのに変わりゆく喜びも多分にあたえてくれる。
また、この楽曲は今年3月に公開される佐々木誠監督による、生まれながらの全盲者の映画制作を追うドキュメンタリー、映画「ナイトクルージング」のエンディングテーマに決定している。
けもの / 2nd ALBUM「めたもるシティ」全曲試聴
彼女はこれまで3枚の作品を世に送り出してきた。
なかでも2017年にリリースされた菊地成孔氏プロデュースアルバム『めたもるシティ』は間違いなく音楽史に残る名作といって過言ではない。大貫妙子が1977年に発売したアルバム「SUNSHOWER」を初めて聴いたときの感動に近いものを感じた。
同アルバム収録の「第六感コンピューター」はなかでも凄まじい楽曲で、きらめく『けもの』の魅力が爆発している。往年のディスコサウンドを刷新した彼女にしか醸し出せないであろうこの楽曲のグルーヴは音の鳴った瞬間からみたことのない異世界にいざなってくれる。
冒頭の歌詞はジャン=リュック・ ゴダール監督 映画「気狂いピエロ」からインスピレーションをうけたものであるらしく、そこから肉付けし、タイトルで包んで完成したというこの楽曲、まだ聴いたことのないかたは必聴である。
そんなシティポップの名作を誕生させた『けもの』だが、今はまったく違う思考なのだという。
現在はサウンドにダブやロックをとりこみながら、全くあたらしいナードなサウンドを鋭意制作中とのことだ。それが次回作、今年夏前にリリース予定のマキシシングル「美しい傷(仮)」(5曲収録)でお披露目となるようなので、どんなサウンドになっているか我々は大いに期待して待とう。
従来の「シティポップ」から脱却し、力を抜いたサウンド「NERD ROCK」へと進化を遂げ、シティからタウンへと向かった『けもの』の眼は、なにをみているか今後も要注目だ。
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作品情報
アルバム「めたもるシティ」より『めたもるセブン』が
映画「ナイトクルージング」のエンディングテーマに決定。
2019年3月30日より、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
映画「ナイトクルージング」
佐々木誠監督による、生まれながらの全盲者の映画制作を追うドキュメンタリー
映画評論家でもあるRHYMESTER宇多丸氏も「一度は見た方がいい」と紹介した話題作。
マキシシングル(5曲収録)が今年夏前にリリース予定。
また、7inch盤(2曲入り2枚)もリリース予定。
ライブスケジュール
◆2019年4月3日(水)
「けもの#シティからタウンへ」
※けものワンマンライブ
会場:晴れたら空に豆まいて
OPEN 18:30 START 19:30
料金:前売 3,000円(*1ドリンク別) 当日 3,500円(*1ドリンク別)
出演:けもの(青羊 vo,g )
トオイダイスケ eb,vo
西田修大 g
伊吹文裕 dr
安田コウタ key
ゲスト 角銅真実 vo
ご予約:
・メール:晴れたら空に豆まいての「RESERVE MAIL」かお電話
TEL:03-5456-8880 (15:00〜22:00)
・ぴあ(Pコード:143507):http://ticket.pia.jp/pia/event.ds?eventCd=1905953
・Peatix:https://kemono190403.peatix.com
けもの公式HP:http://kemonoz.com
けもの公式Twitter:https://twitter.com/kemonoz