唐突だがザ・ビートルズが大好きだ。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターによる地球史上最高の音楽グループ、ビートルズ。


その詳細はここで説明するまでもないが、4人それぞれのパートをご存知だろうか。結成時は、下記のようなフォーメーションだった。


ジョン・レノン(ヴォーカル・ギター)
ポール・マッカートニー(ベース、ヴォーカル)
ジョージ・ハリスン(リードギター)
リンゴ・スター(ドラム)

しかし、このフォーメーションは最終的に原型をとどめなくなる。

僕が生まれる前のグループだが、幼い頃からその存在は知っていたし、曲も知っていた。だが「ハマる」というほどではなかった。思い返すと、僕がビートルズに「ハマった」のはいつからだっただろうか。

キッカケは、日本でなじみ深い『赤盤』『青盤』『1』などのベストアルバムではなく、一枚のオリジナルアルバムだった。そのアルバムの名は『The Beatles』。通称"ホワイトアルバム"だ。1968年に発売され、オリジナルアルバムとしては10枚目の作品になる。

真っ白なジャケットに、ただバンド名が記載されているだけの、世界で最もシンプルなジャケット。僕はこのアルバムの影響で、ゴチャゴチャしたものよりも、スッキリした印象のものが好きになった。

ビートルズのオリジナル・アルバムはすべてが名盤だし、駄作というものが一切無い。だがその中でも、このホワイトアルバムだけは、次元が違う場所にある。

最大の特徴は「バンド・メンバー4人で1曲を演奏している曲がほとんど無い」ということだ。理由は、順番にパートを録れる8トラックのマルチトラックレコーディングが初めて導入されたこともあるが、やはり関係値だろう。

このときの4人の仲は最悪で、リンゴがレコーディングを欠席したり、プロデューサーのジョージ・マーティンが休んだり(ケンカばかりしているビートルズが嫌になったから)と、状態は解散間近だった。

しかし、そのおかげで「メンバーがそれぞれ好き勝手やる」というレコーディングの仕組みができていた。「ビートルズの4人を好き勝手やらせれば、こんなものができるぞ」と言わんばかりの凄まじい楽曲群が立ち並んだ。野に放たれた獣のように、自由に創られた楽曲を聴くと、改めて「天才集団」「銀河系集団」といったような言葉が思い浮かぶ。

作風やコンセプト、ジャンルの統一も皆無になっている。ポップス、ブルース、ハードロック、メタル、パンク、フォーク、ブルーグラス、クラシック、コラージュなど、書くとキリが無い。多岐にわたる音楽性が、一枚のアルバムに押し込められている。1968年までに生まれた音楽のすべてが具現化されている。当時の評論家からは「この一枚でヨーロッパの音楽史を網羅している」というコメントまで飛び出した。

その作風は、1曲目からおもいきり表現されている。このアルバムが「ソロの寄せ集め」だと宣戦布告しているようなレコーディングだ。

ポール・マッカートニーが作詞作曲した「Back In The U.S.S.R」という曲は、なんとヴォーカル、コーラス、ベース、リードギター、ピアノ、ドラムまでを、本来「バンドのベース、ヴォーカル」であるポールが演奏している。プレスリーのモノマネで、声色を変えてコーラスパートを歌うポールの声は「1人で全部できますよ」というメッセージにも聞こえる。

30曲収録の大作だが、このアルバムの評価は完全に二分されている。「力を合わせていないからバンドっぽくない」「統一感が無い」「まとまりがない」といった否定派の意見と、「現代音楽のすべてが詰まっている名作」といった肯定派の意見だ。

僕は完全に後者で、ビートルズの音楽に対する飽くなき探究心と、比類無きソングライライティングセンスに心臓を打ち抜かれた。

ちなみにビートルズの話をすると、ジョン派 or ポール派の話になるのだが、僕はジョン派だ(QOOLAND川﨑はポール派)。

もちろん、ポールマッカートニーにも多大な影響を受けているが、ジョンレノンの発言や声、さびしげな歌詞が大好きだった。僕にとって、ビートルズのアルバムの良し悪しは「ジョンがたくさん書いているかどうか」が重要なファクターになっている。

このホワイトアルバムでは、ジョンの書いた曲が13曲もある。インドから帰国し、創作意欲が戻ってきている節がある。

反面、1967年発売の『サージェント・ペーパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は、ロリーングストーン誌が選ぶオールタイムベストアルバムでも1位を獲ったバンドを代表する傑作だが、僕はそこまで好きにはなれなかった。ジョンの曲が3曲しかないのだ。そして、僕はジョンの「好き勝手」が集約されているホワイトアルバムを、毎日聴いていた。「Happiness is a Warm Gun」のジョンのヴォーカルを聴いているだけで、毎日が満たされた。今でもビートルズで、一番よく聴くアルバムだ。

それぞれの個がぶつかり合い、整合性も無く、トータルバランスも悪く、メンバー間の仲も最悪だった、このホワイトアルバム。この作品を「グチャグチャのまとまりのない失敗作」と評する人の気持ちも分かる。だが一方で、それは乱暴な意見だとも思う。ロック史上例が無いほどの音楽性が集約されているのだから。

そして、僕は何よりも「どんな状態でも音楽を創ることをやめない」ビートルズのあり方に強くインスパイアされた。これは自分も表現者だからだが、このあり方は強く持っていたいと思う。お金や地位や名誉のためではなく、「表現することを絶対にやめない」という強い意志が、真っ白なジャケットの30曲に凝縮されている。

しかし、この翌年、ジョンはビートルズのスタジオに顔を出さなくなる。ジョンはヘロイン中毒になり、ポールはスコットランドに所有している農場に引きこもることになる。ポール・マッカートニーが3人を訴える裁判を起こし、ビートルズは「法的に」解散した。


『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』


文・平井拓郎(QOOLAND)



QOOLAND
平井 拓郎(Vo, Gt)
川﨑 純(Gt)
菅 ひであき(Ba, Cho, Shout)
タカギ皓平 (Dr)

2011年10月14日結成。無料ダウンロード音源「Download」を配信。2013年5月8日、1stフルアルバム『それでも弾こうテレキャスター』をリリースする。同年夏、ロッキング・オン主催オーディション RO69JACKにてグランプリを獲得。ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013に出演した。その後もROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014、COUNTDOWN JAPAN 14/15等の大型ロックフェスに続けて出演。2015年夏、クラウドファウンディングで「ファン参加型アルバム制作プロジェクト」を決行。200万円を超える支援額を達成し、フルアルバムの制作に取りかかった。2015年12月9日、2ndフルアルバム『COME TOGETHER』発表。2016年8月6日、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016に出演。 HILLSIDE STAGEのトリを務めた。

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