クラウドファンディングが、イマの僕を形作っている。誇張でも何でもなく、そう思っている。当時も多くを学び取ったが、ここ最近、あの頃を振り返ることで、また学び取ることがある。


2016年現在、多くのバンドがクラウドファンディングを使うようになった。さまざまなIT会社も、サイドサービスとして、クラウドファンディングを取り入れてきている。いろいろな分野に特化したクラウドファンディングサイトも出てきた。muevoのように音楽に特化したサイト、スポーツに特化したサイト、地域に特化したサイト。クラウドファンディングという文化は、まだまだ広がっていくだろう。


僕はクラウドファンディングを、ここmuevoで実地させてもらった。結果は、みんなのおかげで、大成功だった。


プロジェクトを通して、大切なことをいくつも学んだ。「だれに歌っているか」が限りなく分かったこと。「その人がなぜ、僕の歌を聴いているか」ということ。「お金」そのものは、ただの紙と金属で、「応援、感謝」を具現化した存在だということ。目標に対する熱意が、リターンのクオリティという「行動」から伝わるということ。リターンは何よりも「面白いかどうか」が大切なこと。「面白いこと」は優しいということ。自分がどれだけ、恵まれているかということ。準備の大切さ、準備の本当の意味。


他にもまだあるが、到底、書ききれない。そのなかでも、イマまでの僕にまったく存在しなかった、新しい感覚がある。それは「実際に形にしたときに初めて伝わる。設計の段階には限界がある。形になるまでは独りでも、自分が信じたことを信じて、進めばいいということ」だ。


QOOLANDがクラウドファンディングを始めた昨年は、イマほど、クラウドファンディングは盛んではなかった。「12日後にやります」という発表をしたが、困惑した人たちも、たくさんいた。


「つまりどういうこと?」

「よくわかんないけど、お金出すの?」

「やり方ややこしくないの?」

「ムズカシそう。よくわかんない」


そんな声が相次いだ。問い合わせもずいぶんあった。メンバーやスタッフも、すぐには理解できなかった。誰かが反対するわけではなかったが、初めて聞くシステムだからわからないのは無理もなく、スタートするまで、みんなどこかピンと来ない様子だった。僕独りが空回っているようだった。


だが、始まってみれば、muevoの人たちの協力もあって、2日弱で目標を達成した。QOOLANDサイドにも、ファンサイドにも「クラウドファンディング」というものが、すんなり入ったように感じた。みんなが「腑に落ちる」感触を手にしたように見えた。


僕はこのとき、気付いた。人は、物事を目の当たりにしたとき初めて、その本質をつかみ取るのだと。実際にそれを見せられない段階では、誰かの心が動くことを、期待してはいけないのだと知った。説明の段階で、本質まで分かってもらおうというのは、どうしても無理があるのだ。


なぜなら、やる前の段階で、その完成図がイメージできているのは、言い出しっぺの本人だけなのだ。いくら上手く説明しても、「説明」と「実際」はあまりに大きな距離がある。「説明不足」という単語もあるが、そもそも「説明」を100%しても、「実際」に対しては、絶対に不足しているのだ。


たとえば90年代に、こんな話をしたアメリカ人がいる。「審査も無い、匿名で誰でも書ける無料の百科事典ってどうかな?」「アンテナも無くて、ボタンも一個だけのタッチパネルだけの電話ってどうかな?」


それだけ聞いても、誰も何とも思わない。まわりも「はぁ……。まぁ、やればいいんじゃないっすか?」としか言えなかったそうだ。マジメに話し合えば、「信ぴょう性の無い辞典なんて価値が無い」「おとなしくボタンを付けない理由が無い」など、やらない理由ばかりが挙がる。当然だ。話を聞いた人たちには、その完成図が見えていないからだ。その完成図の素晴らしさは、言い出しっぺにしか、見えていない。しかし、言い出しっぺは、自分だけに見えている、その完成図を信じるしかない。誰も信じなくても、自分だけは、信じていなくてはいけない。


今やWikipediaは、数多くの人が頼りにしているし、スマートフォンはケータイマーケットの主流になった。しかし、この完成図をイメージできていたのは、言い出しっぺの本人だけなのだ。説明の段階では、やはり無理だ。そういう意味では、言い出しっぺは、それが見える場所まで、みんなを連れて行く義務がある。言い出しっぺは、最初は孤独だ。だがそれが、完成したとき、多くの人が言い出しっぺのスピリッツに追いつき、その孤独は必ず解放される。


僕はクラウドファンディングをやって、その気持ちよさを味わった。未開拓の場所に踏み出す勇気が、必要なときもある。すべてが手探りになるが、本気でやれば、今までのエリアでは、得られなかったものが得られる。フロンティアにしか無いものはある。僕は、クラウドファンディングから、表現者としての本質を得た。表現者はそもそも、まだ見ぬ完成図を見せて、人を感動させる使命がある。


作家だろうが、プレイヤーだろうが、画家だろうが、パフォーマーだろうが、みんな同じだ。僕たちは、説明なんかでは伝えられない部分を、「実際」に具現化して、人を感動させるために生まれてきた。笑い、恐怖、歓喜、泣き、驚き、怒り、リラックス。感情が動けば、「感動」だ。それらは「説明」では絶対に得られない。「実際」のなかにしか「感動」の種は植わっていないのだ。


クラウドファンディングは、この「アレイマ」の連載が終わるまでには、必ず書きたいテーマだったので、書けて嬉しい。この先、業種・形態にかかわらず、多くの人たちがクラウドファンディングに触れていくだろう。


クラウドファンディングは、「一人一人の力は小さくても、集まれば大きなことができる」と信じる、夢多き開拓者たちの新たなカタチだ。


これからこの新たな場所へ踏み出す、すべての人たちに、素晴らしい経験が訪れることを、ここクラウドファンディングサイトmuevoの片隅から祈っている。


文・平井拓郎




QOOLAND

平井 拓郎(Vo, Gt)

川﨑 純(Gt)

菅 ひであき(Ba, Cho, Shout)

タカギ皓平 (Dr)


2011年10月14日結成。無料ダウンロード音源「Download」を配信。2013年5月8日、1stフルアルバム『それでも弾こうテレキャスター』をリリースする。同年夏、ロッキング・オン主催オーディション RO69JACKにてグランプリを獲得。ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013に出演した。その後もROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014、COUNTDOWN JAPAN 14/15等の大型ロックフェスに続けて出演。2015年夏、クラウドファウンディングで「ファン参加型アルバム制作プロジェクト」を決行。200万円を超える支援額を達成し、フルアルバムの制作に取りかかった。2015年12月9日、2ndフルアルバム『COME TOGETHER』発表。2016年8月6日、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016に出演。 HILLSIDE STAGEのトリを務めた。


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