和の心と壮大な音楽を携えて、世界で活躍するKAO=S(カオス)をご存知だろうか。 川渕かおり(Vo)、山切修二(Vo&Gt)の二人体制で活動を行う音楽ユニットであり、表現団体である。


川渕と山切が意気投合し、2011年、3人のメンバーが揃ったことで、バンドとしての本格的な活動を開始。

独自の音楽性や、剣舞や語りなどのパフォーマンス性をかけあわせた斬新な音楽はまさしく異例で、国内外から注目を集めることとなる。

結成から数か月という早さで、世界最大の音楽フェスティバル「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)」に出演。

その後は6都市を巡るアメリカツアー、ドイツをはじめとしたヨーロッパ圏でのライブや、世界から注目されるフランスのイベント「JAPAN EXPO」に出演を果たす。

その後アメリカの番組から取材を受け、「芸術性の高い日本のバンド」として世界へ紹介されたことをきっかけに、海外フェスや各国のイベントへのオファーが激増し、世界各国でライブを開催。大成功を収めた。彼らは日本を飛び越え、世界で多大な評価を得たのだ。

国内での活動も負けていない。定期ワンマンライブの開催や全国のホール規模での単独公演の完遂、ミュージカルや式典などの出演など、多岐に渡る分野で活動をしている。

彼らを一言で表すにはとても難しい。なぜなら彼らは、“表現団体”なのだ。

プログレッシヴロックや、民族音楽、現代音楽など、さまざまな音楽が合わさった壮大な音楽と深淵さは随一のものだろう。

しかし、それだけではない。音楽がある前提で、映像または演出が共存しているからこそ“KAO=S”の音楽となるのだ。

その意味とは一体なにか? 3月にリリースされたばかりのサードアルバム『AMRITA』からピックアップした3曲を通して、考えていきたいと思う。



●KAO=S - AMRITA [Official Music Video] 



レッドホットチリペッパーズやX JAPANのエンジニアを務めたKenji Nakaiをプロデューサーに迎えた今作のリード曲となる「AMRITA」。

クラウドファンディングにて集まった資金で作成されたMVは、LArc-en-CielやMISIAなど名立たるアーティストたちの品を手がけた野田智雄が担当し、壮大なスケールと自然美を映したとっておきのMVとなっている。

まず印象的なのは、冒頭の川渕の語りだ。まるで自然や人間の理をひとつずつなぞっては教え伝えるように並べてゆく。

その神秘的な空気をそのままに、幽玄な映像と民族音楽と現代音楽の融合した独特なサウンドが展開していく。

タブラやストリングス、三味線で和の心を描きながら、オルタナティヴな一面を垣間見せる。彼らの魂はとてもロックなのだと感じる節が散りばめられている。

特に展開にメリハリがあり、盛り上げ方も綿密に作られているのだろう。滾る躍動感は、聴いているだけでぞくっとくるほどインパクトがある。 遠く果てまで続く大地や猛々しい木々、世界の呼吸。語りで読む自然の理は、音像となってリスナーに届く。 この楽曲のテーマは「旅」と「糧」という。まさに人生あるいは新しい道の始まりを告げるように、清々しく美しい。きれいな音が並ぶのに、厚みもあり、追い風のように聴く人の背中を押すようなパワーを持っている。 物語や詩集、あるいは聖書のような歌詞だが、川渕の歌声が一言ずつ紡ぐと、難しい言葉でもすうっと身体に馴染んでは優しく溶けていくようだった。 あくまで言葉も表現のひとつであり、届くものとしては勇気や希望といった明確でわかりやすいものであるのは、KAO=Sの音楽の魅力のひとつだ。



●KAO=S - 桜の鬼 (Ogre of the Cherry Tree ) [at MINAMI AOYAMA MANDALA] 



こちらはライブ映像より。川渕の剣舞のために、山切が作曲したと言う「桜の鬼」。 ライブでは生音と共に、川渕は一切歌わずに身体のみで渾身のパフォーマンスを披露している。まさしく、ひとつのショーだ。 

「創造と破壊」「生と死」「復活と再生」という3つのテーマを、長編インストゥメンタルで繋ぐことで「桜の鬼」は完成する。 

威圧感のあるお面を被った川渕が、機敏に、時にはゆるやかに踊り出す。 まずは創造への意欲を掻き立てるように、ストロークを重ね、ワウが躍動感をプラスしていく。ひとつ盛り上がったところで、崩壊を迎えていく瞬間、ダークに転調していくところでぐっとストーリーに引き込まれていくのだ。 

生死の狭間で、川渕は苦しんだように激しい呼吸をする。

その息遣いまでも、音楽の一部分となる。 そして復活を迎える瞬間、川渕は勇ましく剣舞を披露する。 

死の淵から生へ舞い戻り、再生する瞬間は息を呑むほど美しい。 

この時に命の炎が吹き上がるように、アタックの強いギターストロークや三味線が勢いを増して掻き鳴らされる。川渕の全身の動きと細かな音がすべてリンクして、魂として繋がっていく。 

生命の美しさ、儚さ、強さをハミングのような歌声と多彩な弦楽器のアプローチ方法で、表現している。 

音楽で聴覚に刺激を、そしてパフォーマンスで視覚にも刺激を。 この両方に抜かりない姿勢がゆえに、彼らの音楽は“芸術作品”なのだ。 

聴いているだけで癒されるだけではなく、芸術作品を見た時にびりっとくる衝撃を常に携えている。 

これが、KAO=Sの“異例さ”であり、世界から評価される要因となっているのだろう。 



●KAO=S - 桜香る (Sakura Kaoru) [at Shinjuku MARZ, 20 March 2018] 



KAO=Sの代表曲となる「桜香る」では、前述2曲のようなクールで研ぎ澄まされた印象とは変わり、朗らかで爽やかな印象を受ける。 

繊細に作り上げた造形品というよりも、ハッピーな気持ちを主体としたJ-POPソングだ。 

とても楽しそうに歌う川渕と山切をはじめとしたメンバーたちと、場内が一体感となる喜びが色濃く映っているだろう。 

「輪廻」がテーマだが、難しく捉えることではなく、未来と希望を切に歌うというとてもストレートなアプローチだ。 

この時川渕は左膝を負傷し松葉杖で出演しているのだが、怪我を思わせないほどの力強い歌声を見せており、さらに説得力が増し、希望に満ちている。 

また、川渕と山切の爽やかできれいなコーラスワークもこの楽曲のチャームポイントだ。 

この人たちの歌声が持つ世界観はとても大きく、ライブハウスでは収まりきらないほどの熱量を持追っているだろう。 

ボーカリストとして、バンドとして出来ることばすべて取り入れるKAO=Sらしい幅広さだ。そして、この曲が代表曲というのが、とても彼ららしい。 

音楽という作品づくりに対して、あらゆるアプローチを取り入れ楽しむ。 

その楽しみがとても伝わってくるだろう。

音楽を通して、彼らは“音楽”だけではなくたくさんのものを表現している。 

だからこそ、KAO=Sには“表現者”という肩書が相応しい。 

その存在は唯一無二であり、彼らはその卓越した才能を活かして日本の新しい音楽を切り開いているのだ。



音楽×パフォーマンスの道を開拓する“表現者”、KAO=Sの魅力をお伝えできただろうか。 

震災など混沌とどよめきで埋もれる日本で、世界に日本の音楽を発信する意を込めて“KAO=S=カオス”と命名したという。 

日本の新しい音楽の姿を追求し、世界へ羽ばたく彼らを国内で見られるチャンスは限られているし、これからはもっと世界へ進出するであろう彼らを国内でお目にかかれる機会は減るかもしれない。 

今年は、幾つかの海外公演予定の他に、国内でのライヴは、7/6の川渕の生誕前夜祭イベントのゲスト出演、そして12/11に渋谷マウントレーニアホールでのワンマン公演を予定している。 


彼らが偉大な存在となって遠くなってしまう前に、たくさんの人にぜひとも“表現者”として独自の世界観と壮大な音楽とパフォーマンスを直に見てほしいと思う。 


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