ラッパーになんかなるんじゃなかった。言いたいことは言えずに減った。

言葉を選べる大人になった? こだわり捨てて算盤転がす。
近頃は地下のほら、見たことない覚悟要らない王道楽土。
落語みたいなオチもなくて、曲に出来ぬ角度がある。
きな臭いことが起爆剤なのか、規格外になれない日が辛い四月前。
CDを出しても人生は変わらず、TVに出たら変わるさと祈る。
TVに出ても人生は変わらず、書籍を出したら変わるさと祈る。
「夢? そんなもんあるわけないじゃん」
ドラえもんみたいなエイプリルフール。


僕は元小説家志望、大学は卒業、この情熱が死亡。 

書けば書くほど、この苦労、孤独と損得も姑息そう、顔隠す虚無僧。
夢なんて叶うもんじゃない。父が言った「現実を見なさい」
UMB2008東京予選、バトルのエントリーに原点見据えて。
ひょんなことから一発メジャーデビュー。才能があるのかないのかわからず。
「おやすみ」から朝が始まる。初期衝動を使い切っちまった青春。
夢中で握ったオープンマイク。どうして今では興奮しない?
「ラッパーになんかなるんじゃなかった」
ドラえもんみたいなエイプリルフール。


本心なのか本心じゃないのか? そんな二元論、もう死んだ妄信だ。 

童貞がセックスの上手さを語るように未完成原稿はただのゴミ。
自信が年齢をとる。「文字物のお仕事、欲しいよ」と押し黙る。
新人賞を妊娠しようにも信じようとせず金字塔を読み。
「小説家になろう」「小説家になろう」パンドラの匣に閉じ込めて烏滸がましさを知ろう。
バトルレポートやコラムの連載、貰えたライター仕事が掲載。
ラップより評判良く、オーバードーズしそうな思想は萎む。
小説書いてたあの頃、まごころ、羽衣纏おうと飛べない若者。
新人賞に応募しないで、宝クジが当たるのをひたすら待ってた。
イージーモードをロードしたって、馬鹿な無理が祟るのを四月が笑ってた。
小説家になる? わかってんだよ、後から辛くてどうせ砂を噛む。
「夢? そんなもんあるわけないじゃん」ケンカしたって勝てねぇジャイアン。
凍りついた効率だけの合理主義。濃密な人生よりノーミスだって脳に居座るのに。
「ウチで小説を書きませんか?」そんなメールがきたら君ならどうするよ?
これは、何かの間違い? いや、星の海と書いて読み方は正解。
口にした弱音が嘘になってく。
ドラえもんみたいなエイプリルフール。


「ラッパーになって本当に良かった」遠回りが一番の近道だった。 

夢ってやつは叶わないと吐いてた。口偏にプラスで叶うなんてアイデア。
空いてた時間に出版社で面会だ。新人賞狙ってたあの星海社。
太田克史と担当編集、オタマジャクシのランドセル。
「どんな小説を書いたらいいすか?」商業主義はラップブームにフリースタイル。
しかしそんな疑念も完全消滅。太田さんの答えは「探偵小説」
フェア? アンフェア? 本格? 新本格? 脱格? バカミス? 書けるか、笑える。
探偵小説はヒップホップに似ている。どちらも警察が厳しいときている。
違うジャンルのケイダブが二人みたいな検閲、生活はジリ貧。
現実は小説よりも奇なり。それでもやっぱ小説を書きたい。
そして僕は原稿を書き始めた。戦闘用の前頭葉を冷凍庫から取り出した。
言葉にするというのは技術だが、伝わない記述があるってまたひとつ気付くんだわ。
ボツ、またボツ、ボツ、またボツ、フィクションから体現する僕。
探偵小説を書いていたつもりが、私生活に支障出る私小説に挑んでる。
これからの僕は駆け出しのストーリーテラー、それはこんな風な書き出しから始まっていった。
「我輩はラッパーである、名前はまだ売れていない」



この歌詞を書いたのは、ラップというスタイルを通し、ストーリーテラーとして物語を綴る表現者、ハハノシキュウだ。 

青森県弘前市出身のラッパー/小説家である彼は、もともと小説家を志望して執筆を始め、やがてそれを「諦め」たという。
そして、MCバトルで環ROYのラップを見たことがきっかけとなって自身もラップの世界で活動をスタート。2012年には処女作品集「リップクリームを絶対になくさない方法」をリリースし、その後もDOTAMA とのコラボアルバム「13月」や実質的なメジャーデビュー作となった「おはようクロニクルEP」、オガワコウイチとの共同名義の2枚組アルバム「パーフェクトブルー」、盟友インプロデュオHUHとの即興コラボアルバム「3年後まで4年かかるタイムマシン」、そして自身のソロ作「ヴェルトシュメルツ」と、コンスタントに作品を発表してきた。
ラッパーとして自身の「言葉」で大きな注目を集め、2019年4月には作品「ワールド・イズ・ユアーズ」で念願の小説家デビュー。合わせて「小説家になろうEP」をデジタルリリースした。
さらに、そこから自主レーベル「猫背レコーズ」を立ち上げ、「懐祭り」「顔」「鼠穴」と立て続けにリリースを展開。現在は2作目の小説、新たなソロ音源、そしてAmaterasとのコラボアルバムなど様々なプロジェクトを進行させ、精力的な活動を続けている。




・【MV】ハハノシキュウ『鼠穴/pantomime』pro.オガワコウイチ 




自身を「ラッパーではなく、ストーリーテラーなんだ」と定義づけている彼。何よりも「言葉」を重要視しているというその表現スタイルがむき出しになった作品「鼠穴」は、楽曲というよりも、まさにひとつの小説のように受け手の心に流れ込んで圧倒してくる。 

緩急のついた展開と巧みに仕込まれた伏線が絡み合い、一度その世界観に心を掴まれたら11分55秒の間ひとときも目を離すことができない。古典落語からとられたタイトルと合わさって、彼が「物語を紡ぐ」という世界から来た表現者であることをこれでもかと見せつけて叩きつけてくれる。
感情を揺さぶる名作として、ひとつひとつの言葉を噛みしめながら観てほしい。




・"水銀pt1" - マザーテラス(ハハノシキュウ×アマテラス) feat.M1NAZUK1 




AmaterasとM1NAZUK1とコラボした「水銀pt1」は、複数の表現スタイルが絡み合う中で、ハハノシキュウの際立った個性や存在感を彼のソロとはまた違ったかたちで体感できる作品だ。 

「尖ってんじゃねぇ、削ってんだよ」というパンチラインはそのスタイルを明確に表していると言える。
ラップ界の中でも異端児として知られる3人による異色作として注目してみてほしい。



小説家を目指してきたという独特の経歴、ヒップホップへのアンチテーゼやサブカルチャーのルーツを見せる表現、そしてその言葉が生み出す重厚な物語によって、一人の表現者として存在感を放ってきたハハノシキュウ。 

2020年1月からは随筆「ハハノシキュウの計算より15足りない日々」の連載を開始し、自身のトレードマークであるキャップの販売、オリジナルTシャツの発表など、ファッションの面でもその世界観を発揮している。(本人曰くdj hondaを目指しているとのこと)
どこまでも「言葉による表現」を追求する彼が、今後も控えている数々のプロジェクトによってどんなストーリーを紡いでいくのか、目が離せない。
ソロ作品、コラボ作品、小説と、さまざまなかたちでくり出される彼の言葉に要注目だ。



【読者に向けて一言】 

手を上げんな、溜飲を下げろ 



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【リリース情報】 

『小説家になろうEP』


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