音楽を生業にするのは、決して簡単なことではない。歌が歌いたくて飛び出し上京。音楽の世界で生きていきたいことを家族になかなか理解されず、音楽活動の中で人間関係に疲弊したこともあった。そのストレスは身体をも蝕んだ…今回紹介するのは、そんな紆余曲折を経てなおステージに立ち続けているシンガー、松岡里果だ。


松岡は、フルートを奏でながら歌う。2011年、JTB夏旅キャンペーンのCMソングとしてフジテレビで放送されていた「向日葵」を聴いたことがある方もいるかもしれない。清流のように澄んだ歌声は、彼女が吹き鳴らすフルートの音とよく似ている。繊細で、それでいて凛々しい歌だ。ライヴ映像で、目の前にいる一人ひとりに語りかけるかのように歌い、身を乗り出してコーラスを求める姿からは、松岡の誠実な人柄が窺える。


2015年4月にリリースした4枚目のアルバム『哀しくも美しい世界』の表題曲「哀しくも美しい世界」も、独特の透明感を帯びた楽曲だ。〈涙の海で船を浮かべて 人魚は泡に 哀しみは月夜に〉と、一篇の物語を思わせる美しい歌詞を、語るように歌う。どこか憂いを帯びた歌声には、あるいは彼女の半生が表れているのかもしれない。


そんな松岡は現在、2カ月に1度のワンマンライヴを行っている。特筆すべきは、その売上の一部を貧困児童への寄付に充てていることだ。自分自身が辛い幼少期を過ごしたからこそ、金銭的な貧しさで子供たちの心まで貧しくなってしまうことを避けたいと願っているのだ。「綺麗なところだけ見せる時代は終わった」と言い、自身の弱さや醜さも表現していこうとしている松岡の取り組みは、きっと子供たちの心に光を灯していることだろう。


2016年4月にリリースした『The Giving Tree』は、YouTubeで全曲を試聴することができる。「ニレイニハクシュ」ではポップに、「さくら-The Giving Tree-」や「この街で」では真摯に、と曲によって雰囲気は異なるものの、全ての曲に共通しているのは深みのある歌声。まずは1曲、その歌声を堪能してみていただきたい。





文・小島沙耶



松岡里果

2011年、数枚のインディーズCDを経て1stシングル「つながる空」をリリース。同年、大手旅行会社JTBのCMソングに自身作詞作曲「向日葵」が大抜擢される。翌年、川崎銀座商店街優秀賞に輝き、テレビ神奈川やRSKなどで特集番組に出演。その後、ラジオパーソナリティはじめ、全国のライブハウス、医師会、老人ホーム、お祭り、養護学校等での活動を展開。あどけない容姿と裏腹な力強いステージング、また超天然ながらウィットにとんだトークとその可愛くて勇ましい姿で幅広い支持を得る。


松岡里果 オフィシャルブログ

http://ameblo.jp/matsuokarika/