映画を観ている最中に、劇伴音楽に魅了された経験はないだろうか? 美しい映像と音楽が合わさった映画を観ている時に得られる感動は、音楽だけを聴いている時には味わえないものだ。しかし、辻林美穂の楽曲を聴いた時に覚えたのは、その感覚に近いものだった。


彼女はもともと、映画音楽を書きたいという思いで大学に入ったのだという。現在は歌物をメインに作っており、歌うことも楽しいというが、彼女の本分はやはり作曲。その楽曲の最大の特徴も、曲であり、メロディだ。


まず聴いてほしいのは「あぶく」。幻想的なピアノと弦楽器のピチカートに乗せられた旋律が、夢幻の世界を描き出す。細い、けれども美しい声で紡がれる歌は、聴き手を日常から非日常へと引き込んでいく。少しでも気を抜いたら魂を吸い込まれそうな、危うさをはらんだ透明度だ。一本の映画を観ているかのような不思議な感覚の渦に、聴けば聴くほど呑み込まれていく。






辻林が4月にリリースしたデビュー・アルバム『クラルテ』には、心地良いシティポップが並ぶ。曲ごとにがらりと雰囲気を変えるそれぞれの曲は、あたかも人生に寄り添うサウンドトラックのよう。日常に嫌味なく馴染み、日々を彩る1枚だ。「人生のパーツになれる音楽を作りたい」と語る辻林の想いが、そのままつめ込まれたアルバムだと思う。


「100年後も残る音楽を作りたい」という辻林は、人に喜怒哀楽を与え、寄り添うような楽曲を制作していきたいと語った。彼女のミュージシャンとしてのキャリアは、まだまだこれからだ。これから先、歳を重ねていくにつれて、さらに様々な感情に寄り添う楽曲を生み出していくことだろう。


文・小島沙耶



辻林美穂

静岡県三島市出身、東京都在住。辻林美穂、tsvaci(つばし)の2名義で音楽活動中。自主制作CD第3弾『Pignon -ピニオン-』を完成させたばかり。


辻林美穂 オフィシャルホームページ

ihttp://meivtsvaci.wixsite.com/tsvaci