アホウドリという海鳥は、とても変わった生き物だ。広げると2メートル以上にもなる大きな翼で羽ばたき、一生のうち多くの時間を海の上で過ごす。鳥なのに、飛び立つためには長距離の助走を必要とする。しかし、一度飛び立ってしまえばその大きなつばさで悠然と、どこまでも飛んでいくのだ。

そんな鳥の名を冠したバンド、「歌うアホウドリ」。ラップ、ポエトリー・リーディング、歌、叫びと、様々な“声”を駆使して感情を表現する。メンバーのほぼ全員にアメリカへの渡航経験があるためか、言葉、そして日本語に大きなこだわりを持っているのも特徴だ。








2016年6月15日にリリースした自身初の全国流通盤『無我夢中』。押し寄せるような「終わりと始まり」のポエトリー・リーディングに始まったかと思えば、「The World Is Mine」の激しいギターに圧倒される。毒々しい音とまくしたてられる言葉の渦を抜けると、次に待ち受けるのは「曼珠沙華」のポップなギターリフだ。はじめの3曲だけでも、全く違うアーティストの曲を聴いているかのように目まぐるしい。





ゾクリとさせられたのは、5曲目の「灯台」。やわらかく浮遊感のある声が物静かなギターに乗せられた、大きな鳥が悠然と飛ぶかのような曲……かと思いきや、突然の激昂と慟哭が訪れる。〈泣き叫び 死ね〉と絶叫するSatoshi(Vo)の声は、身も蓋もない言い方をすれば“夢に出そう”。そのくらいの迫力で、あまりにも激しい感情を叩きつける。圧巻だ。


そんな悲喜こもごも、様々な感情の篭ったアルバムの後に彼らがリリースしたEPが『Scrap & Build』。表題曲の「Scrap & Build」は、KIM(UHNELLYS)とMiya-Z(memento森)を迎え、ラップが言葉の波となって押し寄せる。〈歌う阿呆に見る阿呆 双方ひっくるめて 躍らすのが仕事〉〈最後に笑うのは一体誰 / はーい!俺とお前!〉と、挑発的なリリックが耳に残る。不敵なサウンドとリズムに、思わず身体が揺れてしまう。






アホウドリと同じように、歌うアホウドリもまた、変わったアーティストだと思う。大きな翼を広げた彼らは、次はどんな感情を歌に乗せて飛ぶのか。

文・小島沙耶


歌うアホウドリ
2011年、Satoshi(Vo)とHidehito(Dr)を中心に結成。後に門脇充芳(Gt)、佐久間珠理(Ba)が加入し現行体制へ。メンバーのほぼ全員にアメリカ渡航経験があり日本語ひいては言葉そのものに深いこだわりを強く持つ。言葉の壁を音と言葉その物でぶち破ることを目標に現在まで活動を続ける。これまでに自主制作版ミニアルバムと100円シングルを1枚ずつ作成。2016年6月に自身初の全国流通盤1stFullAlbum『無我夢中』(11曲+ボーナストラック1曲の計12曲)をリリース。​2017年1月に1st E.P.『Scrap & Build』を発売した。

オフィシャルホームページ
https://www.singing-albatross.com/