大阪から東京に拠点を移して活動中のシンガーソングライター、きゃない。

オルタナティブな雰囲気のサウンドに乗せて、抜群にリアルな歌詞を感情揺さぶる歌声で聴かせる。ただリアルなだけではなく、どこか詩的なセンスを感じるその歌詞世界が彼の大きな武器だ。

元々はバンドにてギターボーカルや作詞作曲を担当しており、ROJACK入賞、イナズマロックフェス出演、ミュージックステーションのオーディション企画「Mステへの階段」において全国4位に選ばれるなど、確かな評価を受けていた。しかしバンドは解散。その後2019年2月よりシンガーソングライターとしての活動をスタートした。

シンガーソングライターになってからは、「路上ライブだけで食べていけないか」と考え、実際に1年間トライ。そんな路上での活動と並行してオリジナル楽曲の制作に勤しみ、活動歴1年程度でありながら早くも2枚のアルバムをリリースしている。

そして2020年3月、オーディションをきっかけに満を持して上京。東京でも路上ライブのイメージはできているといい、路上活動への意欲は高い。実際に3月中旬ごろから東京でも路上でのライブ活動がスタート。足を運び、生でその音楽に触れてみるのがおすすめだ。




・きゃない – 私の半分 




冒頭≪もしも僕が今から/あなたの胸の中潜り込んで≫≪本音を探し出せたら/少しはあなたを諦めつけられるかもね≫と歌う歌詞で始まるこの曲。そこから≪あなたが私に放つ/甘くて痛い幾つかの言葉≫という歌詞が続き、一人称が変わってくる。そんな展開に、その「僕」は「私の半分」だった僕なのだろうと思わさせられ、切なさを覚える。 

そんな、痛みすら感じるようなリアルな切なさがある歌詞の世界と同じように、切迫した歌声やセンチメンタルなサウンドが印象的な一曲だ。




・きゃない – 愛の言葉 




17歳の時に初めて書いたというこの曲。自身でも「もうこんな純粋な歌は書けないなとも思えました。」と語っているように、サウンドやコード進行、そしてメロディーにはどこか懐かしさを感じる、初期衝動のキラキラ感がある。そんなキラキラしたムードにのせて、詩的でありながらもまっすぐに入ってくる言葉が紡がれている。 

ある種の懐かしさの中に新しさも感じられるのは、やはり歌詞の表現による力が大きいだろう。≪愛の言葉で作った自転車に君を乗せて≫≪双子座の夢の中でいつまでも≫といった歌詞は、他に例を見ない独特な表現であり、高いオリジナリティとセンスが感じられる。




・きゃない – コインランドリー 




自身曰く「ノリで書いた」というこの曲だが、メロディーの綺麗さやサウンドと声とのバランスの良さは絶品。歌詞自体は、≪回る暮らしの中で/無くしたものってなんだっけ≫≪信号が赤に変わって/昨日と同じ顔になった≫≪帰りたい場所は全て/過去にあるのかな≫と大人たちに痛みを伴って刺さるような内容が描かれているが、サウンドやメロディーは穏やかで温かみがある分、心を前向きに持っていくことが出来る。 

≪今日もコインランドリーからは/いつもと同じ匂い≫というラストあたりの歌詞は、そんな温かさや前向きに働く力を特に凝縮しているといえるだろう。




・【上京前LAST LIVE動画】きゃない×木下優真 「音楽が身近にある場所」北浜雲州堂 2020 3/1 




こちらは2020年3月1日、上京前に行われた大阪での最後のライブ映像。 

冒頭からMCの雰囲気の良さや、路上でも活きるであろうトークの滑らかさやユーモアが感じられる。語っているのは真面目な内容であるにも関わらず、重たくならずに聴かせることが出来る話術は、歌詞の説得力にも通じるものがあるだろう。

ライブパフォーマンスは実にエモーショナル。また、そんな熱量の高いパフォーマンスを見せながらも正確なピッチで歌えている点にも注目。生で見てみたい、聴いてみたいと思わせてくれるパフォーマンスを披露している。



「地元で一緒に育った幼馴染が映画監督をやっていて、映画“僕らは春が来る前に”の主題歌・挿入歌等3曲担当することになった。」という彼。 

路上きっかけでファンになる人もいるだろうし、ネット上で偶然見つける人もいるだろうし、さらにこの映画からファンになるという人も出てくるだろう。この2020年のきゃないには特に注目しておきたい。



【読者に一言】 

僕の一番の推しポイントは歌詞です。

絶対に共感させます。

歌詞の中に薄っぺらい日常ではなく、すごくリアルな歌詞を書いているので、メロディというよりかは、歌詞一つ一つに注目して欲しいです。



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