写真左から、渡邊ハカセ(Gt, Cho)、成志ハウジング(Ba)、山田好転(Vo, Gt)、平井シェイド(Dr)
現役音楽エンジニアであり、ギタリストのための音作りbot(@gt_sound_making)管理人である、またらんが話題のアーティストのサウンドやアレンジの効果等を解説させていただきます。
今回はその何物にも縛られない自由な音楽性、そして文学的でありつつも自然に染み入る歌詞が独特な存在感を放つバンド、「水、走る」の楽曲を解説させていただきます。山田好転(Vo, Gt)のつむぎ出す歌詞やメロディを基軸に、様々なジャンルを取り入れた楽曲たちをメンバーの個性あふれるアプローチで奏でる。その音楽はまるで流れる水のよう。
まずは最新のMVとしてYouTubeにアップされている「Lilly」を見ていきましょう。
この楽曲はフォークやカントリーの要素が取り入れられた楽曲です。水、走るのメンバー構成が活かされた楽曲だと思います。まずこの楽曲の全体のサウンドから見ていきましょう。
ギターは2本での構成になっていて、MVではエレキギターを弾いていますがLチャンネルから聞こえるギターはアコースティックギターとなっています。アコギではコード弾きを中心に奏でていて、軽快な楽曲に合わせてその音はローをざっくりと切ったサウンドになっています。R側のギターはや単音弾きスライドバーを利用した奏法、コード弾き等楽曲を彩るプレイに徹しています。
ベースのサウンドはローを強く出しすぎていないながらもファットな音作りがされていて、まさに曲を足元から支えるようになっています。プレイでもウォーキングベースやゴーストノートを取り入れて派手ではないながらも見事に楽曲の表情を豊かにしています。そして、彼らの最も特徴的な点はドラムだけでなくパーカッションのサウンドも取り入れられている点です。
ドラム自体はシンプルなビートを叩いているのですが、パーカッションが前に出すぎない音で間を埋めるビートを混ぜることで多次元的なリズムの空間が生まれて、より立体的に曲が浮かび上がってきます。
シンプルなフォーク調な曲ながらもそういった細やかな計算、文句のないグッドメロディ、そして曲調に反して切なさが漂う歌詞。それらが幾重にも重なってナチュラルに聴き手の心に染み込んでいく。そんなところに彼らの楽曲の魅力を強く感じます。
続いて解説させてもらう楽曲はより今風な楽曲とでもいえばいいのでしょうか? 「Lilly」と合わせて聴くだけで彼らの音楽の引き出しの深さがはっきりとわかると思います。
この「ミラーボールは光の中」はシンセサイザーのサウンドが取り入れられてより現代的な触感をもたらす楽曲です。この楽曲ではドラムの音がより前に出ておりビート感が強くなっていてダンサンブルな雰囲気も見られます。ギターのサウンドはL側からクランチ/オーバードライブサウンドでのコード弾き、R側はディレイをかけたナチュラルな歪みサウンドで単音弾き、アルペジオが主体になっています。R側のギターの音作りが効果的に空間を広げています。
またシンセサイザーのサウンドもこの楽曲の空気感を作るのに大きく貢献しています。イントロからAメロが終わるまでのエレクトリックピアノはループしたフレーズがミラーボールを想像させ、アタックが弱い音なことも相まって浮遊感を漂わせていますし、次のセクションで「シュワーーーン」と鳴っているシンセサウンドが宇宙的に空間を広げています。
この楽曲における特筆すべき点はある種無機的なイメージを強める楽器の音が多く入っているにもかかわらず、パーカッションの音が混ざる事、重点的に意識の置かれた歌詞などがあることで有機性を失っていません。有機性と無機性を意識することでただのリズムの変化などでもたらされるものよりも豊かな表情を楽曲に加えることができます。音源を作る際にはこういった点に凝ることでより魅力的な音源を作ることができるでしょう。
ライブで再現できないものは音源に入れたくないという人がいますが、私個人の意見としては音源ではライブの熱量などその場の生感をパッケージングすることはできません。音源とライブのそれぞれに良さがあるのだからどちらかを言い訳にどちらの品質向上に努めないのはただの怠慢だと思っています。彼らの音源へのこだわりには並々ならぬものを感じますし、そのクオリティは文句なしです。音源作りにおいて彼らの音源はかなり参考にすることが出来るものでしょう。
文・またらん
水、走る
2010年、山田好転を中心に結成。2012年、初音源作品『running water』を発売。2015年初頭に現体制で本格始動する。MASH A&R 5月度マンスリーアーティストに選出され、その後、1st フルアルバム『New World Order』リリース。また「MINAMI WHEEL 2015」への出演を果たす。2016年も数々のイベントに出演し、これまでに主催イベント『流水、高らかに』を5回開催している。
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