見たままの景色。幽玄で、深淵なる自然の美を、その身体で受け止め、頭と心に焼き付け、鍵盤を通して紡ぎ出す。

情景描写ピアニストとして活動する作曲家・山地真美(やまじまみ)の音楽スタイルだ。 岡山で育った彼女は、大学在学にピアニストという夢に出会い、全ての就職活動を蹴って上京。音楽専門学校に入学した。 卒業後から現在に至るまで、オリジナル楽曲の作成はもちろん、他分野とのコラボレーションにも積極的に参加し、新しい音楽の創造に常に挑み続けている。 

作曲家として、東京と出身地・岡山を中心に、海外公演も行っている山地。 各メディアでも取り上げられる機会も多く、地方や海外のテレビ番組はもちろん、BSフジ番組「ブレイク前夜」の音楽を担当、大手ブランド・CanonのCMに自身の楽曲である「セピア色の風景」を提供するなど、大きな成果を残している。 現在では、出身地である岡山の観光特使を務め、2016年7月には自身のセカンドアルバム『岡山の旅』をリリースし、愛する地元と共に世界へ音楽を発信している。 

また、クラウドファンディングにて支援を受け、イタリアシチリア島で行われた第25回イブラグランドプライズ国際音楽コンクールに出場し、作曲家部門にて名誉賞を、倉敷美観地区を描いた楽曲「裏葉柳」は審査員特別賞を受賞するといった快挙を残した。 

彼女がピアノで表現するのは、“情景”。本来は絵や写真でしか伝えられないと考えられる“目で見える景色”を音に宿し、“音で見える景色”として作品を作り上げるのだ。 音が情景に変わる?一体どういうことなのか?言葉で説明するよりも、音楽で聴いた方が早いだろう。彼女の自然とリンクした“情景描写音楽”を3曲ピックアップし、山地の自然的音楽についてご紹介したいと思う。 



●山地真美アルバム「岡山の旅」より②鶴は舞う



まず初めにご紹介するのが、2015年カンヌ国際映画祭入選作品『ORIGAMI』のテーマ曲 冒頭に何かが崩れ落ちていくような衝撃音のように、ピアノが打鍵されていく。

と同時に、一瞬にして森の最深部まで誘われるのだ。 一面の緑の景色の中、かすかな光に照らされる湖と、湖に浮かぶ鶴が見えてくるだろう。 こうして想像を掻き立て、あたかも見たことがあるような景色をリスナーに想像させるのが山地の“情景描写音楽”だ。 

鶴のなめらかな滑りを描くように、凛々しく紡がれていくピアノの音は繊細かつ大胆。 

どんどん勇み足になるように加速を増していったところで、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。この緩急の差も実に自然らしい。風音や水音、あるいは鶴の気まぐれ。自然の条理を表しているようだった。 

今度は大きく羽を揺らして舞うように、音は広い空間を揺らすように壮大に鳴らされてゆく。 

優雅に羽を広げてはゆったりとスケートリンクのように水上を舞い巡るような、儚くも清らかなワンシーンを描くように、なめらかな指使いと優しく美しいピアノを紡ぐ山地。 

山奥の神聖なる泉で、一羽の鶴のオンステージを、まるで間近で食い入るように見つめている感覚になっていく。 

緩急が織り交ざる中で、やってくる空白の一瞬。鶴がまるで壮大な自然をゆっくりと見上げた瞬間、大きく翼を広げて飛び立つ。 

その勇ましい姿を描くように、ピアノはスケール感を増して叩かれていく。 

恐れぬものはない。そう飛び立つ鶴の一連の動きを、臨場感あふれるピアノメロディで描くのだ。 

まるで写真や映像を見ているようなリアリズムを、彼女の音楽を聴けばいとも簡単に感じ取れてしまうのだ。 



●【絶景×ピアノ】Japanese scene drawing pianist Vol.20 山地真美 【権現堂】 


続いては場面が変わり、満開の桜をテーマとした楽曲。 

埼玉県幸手市・権現堂桜堤を舞台に描かれたこの曲では、晴天の中1000本のソメイヨシノが咲き誇る鮮やかな情景を感じられる。薄付きのピンクと晴れ晴れとした青空。ステップを踏むような軽やかな音で、健やかな景色を表現していく。 最後、風が吹くようになだらかに流れてゆくピアノに、春風を感じるだろう。 

桜の花びらが一枚、風に舞って飛んでいく。その先は未来。 

新しい兆しを余韻に残して、音楽はさっと身を引く。 

山地の音楽は、聴いている人を曲の世界へトリップさせる力を持っているのだ。 

人ではなく、ただその空間にいる無機質なモノになることができる。まるでドラマのようなワンシーンを間近で見たような感動を、山地の曲を通してひしひしと感じることができる。 



●【絶景×ピアノ】Japanese scene drawing pianist Vol.9 山地真美 【神庭の滝】 


最後にご紹介するのは、山地の地元・岡山県の神庭の滝を描いた楽曲。

 勢いの良い滝をイメージしているはずなのに、音はとても優雅で穏やか。 

そう、山地の目には「力強く恐怖さえ覚える水の嵐」ではなく、「日本の美を映した優雅な滝」として捉えているからだ。 

紅葉であたたかな色合いの中、ひたすら力強く流れ続ける滝は、彼女にとって“美”として映っている。 

落ちてゆく水、ひとつひとつが情緒を持っているのだと言わんばかりに、優しく凛々しい音を一音ずつピアノで表現する。 

圧倒されるような恐怖を描くのではなく、和の景色ならではの日本特有の美。その幽玄な景色を、ピアノの音を幾度と重ねて奥行を出しては、壮大かつ立体的な音像美として描いていくのだ。

独特な感性も反映されている山地の楽曲は、時にリスナーが思い込んでいる“普通”と違う景色を閉じ込めているものも多い。 

しかし、そこが良いのだ。似たような景色を知っていても、新しい感覚を教えてくれる。知らなかった世界を覗くことができる。山地の音楽にはそういった“景色旅行”としての楽しみもある。 


情景描写ピアニスト・山地真美がピアノで誘う、美を覗く景色旅行。

それは雄大な自然を味わえる上質な時間だ。

ぜひとも『岡山の旅』をはじめとした、彼女の作品を通して直に感じ取ってほしい。

そして、ライブも随時行われている。17日は埼玉にて。24日は岡山にて、公演を行う予定だ。

直に山地の音楽を体感して、独創的かつ幽玄な自然の景色にトリップしてみてはいかがだろうか。


【HP】https://www.yamajimami.com

【Twitter】@7Maapff