ボカロP、葵木ゴウ。
基本的に“負の感情”が曲作りの原動力で、歌詞には心の暗いところにフォーカスしたような言葉が並ぶことが多い。普段、思っていても誰にも言えない事や口に出すのが憚られるような事を、ソリッドなギターサウンドやポップなメロディーに乗せて発信するというのが一つの特徴。
楽曲「才能なんか」は公開から約10カ月で27万回再生以上を記録。また、「生きるってなんだよ」も公開から約半年で34万回再生以上を記録し、「比較症候群」に至っては公開から約3カ月で再生回数51万回を突破するなど、その音楽と共鳴する人は着実に増加中。
自身では「周りの才能に怯えつつ、歯ぎしりしつつ、ボカロ界隈の激流にしがみついています」と話すが、その音楽性と言葉選びによって確かな輝きを放つボカロPであるということは間違いない。
・才能なんか / 音街ウナ
「跳ねるリズムを意識し、曲調はしっかりとポップにした」という楽曲で、この曲によって自身の中でポップさを掴めたという楽曲「才能なんか」。その言葉通り、リズム隊やギターの入れ方には跳ね感があり、メロディーラインはキャッチー。サビだけではなくAメロやBメロ、あるいはCメロにもキャッチーさがあり、幅広い層に響きうる1曲だといえる。
歌われている内容は冒頭から≪僕に才能なんかないなら もっと早く教えて神様≫と、例によって卑屈さのあるもの。「メロディーにあった言葉選びをすることや韻を踏むことを意識しつつ、自分が普段思っていることを書いた」というその歌詞が、痛いほどに刺さる人もたくさんいるだろう。
・雨を待つ。 / 音街ウナ
「数年前の秋に、物心が付いた頃から一緒だった愛犬が亡くなり、それ以来“秋”という季節は“別れの季節”という認識になってしまいました」と話す彼。この楽曲は、そんな「秋の物悲しい感じ」をテーマにした楽曲だ。
イントロにはポップさが漂っており、特に華やかさも感じられるギターサウンドが存在感を発揮する。しかしメロディーにはキャッチーさの中に、自身のイメージ通りの物悲しい雰囲気が乗っていて、歌詞にも≪ねぇ、夕景 いつかのように泣いて 伏し目がちな私なんて「嫌いだ」って≫と感傷的な言葉が並ぶ。そんな、ポップさと物悲しさのバランスが絶妙な1曲となっている。
・比較症候群 / 音街ウナ
「お洒落な雰囲気を出すためにコード進行からこだわっている」という楽曲「比較症候群」。≪"自分"らしく生きたいだけなのにね どうにも隣の芝生が青すぎて嫌だ≫と歌う部分と、≪「みんな違ってみんないい」じゃ騙されねぇぞ≫と歌う部分といったように、サビが2段階になっているところが聴きどころだ。入りでぐっと引き付けられ、2段階目のサビによってさらに引き込まれる。
歌っている内容はそのタイトル通り、自分と誰かを比較してしまうことによる苦しみや劣等感など、「純度100%で普段思っている」こと。≪とはいえ"自分"にすらなりきれんまんま死にたくもねぇしな≫ともがくその姿が自身と重なるという人も多いはずだ。
今後、自身の音楽を「もっと聞いて欲しい」という思いもあるし、「盤石の地盤を築いて、CDイベントもやりたい」とも話してくれた。今は「環境が変わってそれになかなか追いついていない」というが、共感力の高い歌詞とキャッチーなセンスを持つ葵木ゴウというボカロPが、これからにますます期待が高まる存在の一人であることは間違いない。
【読者に向けて】
聞いてくれてありがとう
卑屈な歌詞が多いけど、それでもいいって人は聞いて欲しい。
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